第二話、「A定食は550円」
あぁ・・・、早速ですが今回は少しエキサイトさがかけます。次回は頑張って持ち直します。
二人とも注文していたB定(470円)配膳ブースで受け取って席へ戻ると、二人組の男が俺たちの席のそばでこちらを見ていた。勿論、俺は大体の察しはつく。だが、ことが起きる前に対処するのも慌て者と言うものだ。彼女は気づいているかどうかは表情から読み取れなかった。俺たちは黙って腰かけた。
俺は、彼らが”タイミング”を計っていることが分かっていたので、そのせいか彼女に話しかけるタイミングを掴めずにいた。その時、早川が唐突に怒声をあげた。
「いい加減にしてくれますかっ!さっきからニヤついた顔でこちらを見ている様ですけど、言いたいことがあるならハッキリ言ってくださいませんか!?」
一志は茫然とした。二人組の男は、一志以上に呆気にとられている。
二人は居心地の悪さを感じつつも当初の予定を消化しようとしていた。
「ごめん、ごめん。声かけたかったんだけど中々勇気が出なくてさ。」
と、A君。
「そうそう、俺たち君と話がしたかったんだよね。」
と、B君。
「そうですか・・・、じゃぁまたの機会によろしくお願いします。今日は友人と久しぶりの再会なのでゆっくりお話したいんです。」
と、Cさん・・・じゃなかった、早川。
早川の言葉には十分に棘があった。食い下がる意欲も封じられるほどに目で押し切られたA君とB君は、敗戦の表情ですごすごと退散していく。俺は、やはり慣れたもんだなぁなんて呟いた。
「え、なんか言った?」
「あ、ごめん。何でもない。・・・それじゃ、食べようか。」
やっと彼女の美しさに慣れてきたのか、彼らの敗戦で気が楽になったのか、一志は早川と普通に言葉を交わせるくらいまで落ち着いてきた。そんな一志の脳裏に、強烈な疑問が蘇ってくる。何故自分はこの絶世の美女と一緒に昼食を取っているのだろうかと。どうにも納得できない一志は、ぶしつけな質問から会話をスタートした。
「早川さんさぁ、何でおれに声かけてくれたの?」
「え・・・、一人でご飯食べるの辛くなってきちゃって…。ごめん、うちまだ友達一人もいないんだよね。それに、一人で食べてるとさっきの二人みたいな人がいつもうちのことバカにするし…。ホンマに、東京の人は地方の人に冷たいんね?」
ん…?イマイチ状況がつかめない一志だったが、話を聞くうちに全貌が見えてきた。どうやら、彼女は地方出身の自分が東京育ちの他生徒にバカにされていると勘違いしているようだ。彼女は講義の時も、自分の隣に人が座ることはなく誰も話しかけてくれないことから、田舎者だと思われていると感じているらしい。一志は、事の真相(あくまで彼の推測)を説明していくにつれて紅潮していく早川の顔が、とてつもなく可愛いので一志自身も顔から火が出そうになるのを感じる。つまり、男性にとってみれば超絶美麗な早川に簡単には近づけないという心理作用が働き、女性にはそこまでいかなくとも何とも形容しがたい感情により近づくのを遠慮してしまう部分があるということをやんわりと伝えた。すんなり納得とはいかないが、一件筋の通る説明に困惑する早川。落ち着きを取り戻すと、自分の育ちを説明し始めた。彼女は、関西出身のアメリカ育ちで幼稚園を卒業してからハイスクールを卒業する先月まではカリフォルニアで生活をしていたらしい。つまり、帰国子女と言う訳なんだが、映画に出てきそうな美女がドラマのような設定を切り出すものだから、一志の常識スイッチはオフになったようにリアリティを感じさせなくした。しかし、嘘を付いているようにも見えなければ、違和感のある関西弁が彼女の努力の末にひねり出されたインチキ地元言語だということには合点がいく。
だが、自分が声をかけられた理由があまりにもドラマチックでなかったために、多少なりと色々な期待を持っていた一志は嘆息を吐くしかなかった。