ギラつく刃
その手を取らなければよかったのかもしれない。人としての人生を全うする事も出来たし、普通の日常の中で生きていく楽しさを感じる事も出来たのかもしれない。それでも差し出された悪魔の手は、あたしの中でキラキラ輝いてて、逃れる事が出来なかったんだ。
『そう。それでいいのよ。貴女の願いは理解しているから、この選択肢は間違っていない』
「……」
『願いを叶える為に、私達と約束をしてほしいの。出来るかしら?』
出来るかしら?だって?あたしには選択肢がない事を理解した上で、その言葉を伝えるのは反則だよ。もう逃げれないの分かっているし、あたしも研究者の娘なのだから、踏み込んでしまった以上、後戻りは出来やしない。
「はい」
あたしにはYESの選択肢しか、残されていない。ここで断るときっとあたしはあたしでいられなくなるし、ヘタすれば消されると考えてしまう。子供のあたしでも、この居場所が相当、危ない場所って事くらい分かるからね。
『ふふふ。そうねその選択肢しかないでしょうね。ここまで首を突っ込んでしまった、貴女は、もう後戻りなど出来ないのだから……』
「……分かってるなら、どうして」
『そんなの簡単よ。ここで怖気づくようなら、協力者としては失格だからね』
耳元での囁きは、徐々に移り変わりながら、あたしの真正面へと移動していく。ゆっくり顔をあげて女の表情を確認すると、不適な笑みを浮かべながら、あたしを見つめている。
何故だろうか。怪しく、闇に包まれているように感じるのに、それでいて美を感じてしまう自分がいる。そういう所が彼女からしたら、あたしを協力者として選んだ理由の一つなのかもしれない。ただ単に、美しいだけであたしを選ぶなんて、あり得ないと思うし、それはあくまで表の言葉のように思えたから。
理由が欲しかったのもある。不透明な理由ではなくて、きちんとした理由が……。
まぁ、理由付けなんて、あたしの自己満足の一つの形でしかないし、単なる願いなのかもしれないね。
他人の事を観察して、分析する事は出来るけど、完璧ではない。ましてや自分の事が一番分からないのに、他人の事を分かったふりするのも、どうかと思うし。
傍でいれば、何科新しい価値観が見えてくるんじゃないかと、期待している自分がいるんだ。心は闇の中で憎しみに埋もれながらも、期待と希望を持ち合わせているのは秘密。
それはあたしだけが知る真実の一つなのだから……。
考えは斜め上の方向を彷徨いながら、女の言葉で現実へと戻っていく。
『ある人達を崩壊へと導いてほしいの』
静かに呟く言葉の奥に、ギラつく刃が見えた気がした……。