二つの約束
「ふふふ。やっと出れた。あたしの身体だからね。自由に使わしてもらうよ」
邪魔者は消えた。あの時、押し付けられ、鎖に巻き付けられたあたしはもういない。
思考も、感情も、意識も、感覚も、本来のあたしから奪えばいいものを、こうやって少しでも残してしまったお父さんの仲間達に、甘さがあると思うんだよね。あんな子供みたいな口調、あたしじゃない。そもそもミカサはあたしを押さえつける為の『偽りの自分』でしかないのだから。自分が人間と言う事も忘れ、生きている人間から体を奪った『模造品』と勘違いしていた自体が子供であり、あの子を主体とした研究者どもの計算間違いが現実。
「やっと……願いが叶うんだね。長かった」
一人で木箱の中で血まみれになりながら、呟くあたしはもう人間ではないんだろうね。人間から離れた存在になる為に、力を貸しただけだし、何もあたしの中の計算は狂っていないのだからさ。
自分からこんな所に入ったと言っても、何故不思議に思わなかったんだろう……あの子は。
あたしが呟く『あの子』は勿論、もう一人のあたし、そう『ミカサ』をさしている。無垢な子供のまま、育ってしまった脳みそを回転させるのは、大変なことだし。新しい体、子供の体に、移された意識からは違和感しかない。
ふふふふふ、とあたしの笑い声が木魂してる。ひっそりと隠れる必要なんてない。あたしは自分の意思で人を破壊できるのだから、逆らう奴が居れば、自分の栄養分にするだけなんだ。
ね?簡単な事でしょ?
無音の空間の中でかくれんぼをしてたあたしは消えた。簡単に言うと、あたしの一部になって元に戻ったと言うのが一番打倒なのかもしれないが、そんな事どうでもいい。
残されているこの力と、そして心、憎しみがあれば何もいらないんだ。
あたしの笑い声に混ざって、過去の人物が脳裏に過りながら語りかけてくる。あの時の『約束』を忘れるな、忘れた訳じゃないよな?って……。
「馬鹿にしないでくれない?消えろよ」
忘れる訳ないじゃない。あたしはあんたの言葉を聞いて、この身体を選んだのだから、何も後悔もないし、焦りも、戸惑いも、今更ないんだ。
ここは研究所。かつて『壊命』として動いていた居場所。あたしの父が『トップ』から大量の金と、悪を受け継ぎ、回していた場所。そしてあたしは……その関係者のネズミなのかもしれない。
色々な人間を騙すのは、簡単だ。だってミカサは、あたしの中に生き続けているのだから。記憶も全て残っている。勿論『約束』もね。
ミカサとしての『約束』と御笠としての『約束』をね……。