残酷な音
人を潰したいと願った。いつもいつもそれは夢で終わる。
そこに現実なんかなくて、あたしの心は怒りと憎しみで埋もれてた。
枯れ葉のように、色彩を失い、そして透明になって消えていく……。
これでいい、これでいいんだ。
脳内でパチンと弾ける音が聞こえた気がした。何か虫みたいなものが脳みそを駆け巡りながら、うにうにと這っていく。
気持ち悪く思うが、何故か心地よくも感じる。
パチン。
あ、また弾いた。何だろうか、この感じは……。
はじめは、一か所から音がしていたのに、徐々に加速しながら、複数の箇所で音が濃くなっていく。
まるで全身の血管を食いちぎっているように。
そこに叫びはなく、痛みもない。残されたのは『快楽』のただ一つ。
ああ、心地よい、ああ気持ちいい。
正常な脳が崩れていきながら、痺れを醸し出す。そして、あたしの中で別人の命が生まれる。
御笠は狂ってしまったの?幻聴にも似た音が脳内を支配しながら、声へと昇格するのだ。
あなたはだれよ……あたしのなかにいる『あなた』は……。
もうね、怒鳴る元気なんてないのよ、何もないの、存在しないから。
無駄な抵抗なのかもしれない。あの女に注射器で注がれたものは『破壊』の象徴だったんだ。
あたしはもう御笠に戻る事はないだろう、きっと永遠に。
そう感じてしまうのは、気のせいなのかな?当時はそう思いたかった、願ってたんだと思うんだ。
そんな考える力、なんて残ってないのに、まだ人間としての自我があったんだと思う。
自分から実験体になると決めたのに、どこかで後悔している自分がいるのかもしれないね。
『復讐』なんかの為に、こんな姿になりたい訳じゃないのに。
……もう、全ては遅いんだ、手遅れなのだから。
『ねぇねぇ。おねえちゃんだあれ?』
子供の声が聞こえる。それも身近から。まるで体内で響いているみたいだ。
『ねぇねぇ。ここはどこなの?』
無垢な子供と言ったところだろうか。声質を考えれば『幼女』に近いのかもしれない。
喋り方は比較的ゆっくりだが、闇を纏った不思議な喋り方。
この声はどこから流れているの?
『ねぇねぇ。あたしはだあれ?』
言葉を話す事が出来るのなら、そんな事を考えるのも簡単なはずなのに、壊れている感じが否めない。
『ねぇねぇ。あなたは……』
言葉なんて、返答なんて出来ないと思ってた。それでも、唯一残った自我でどうにか振り絞ろうとする自分が存在している。
「あたし……はっ……」
『あなたは……あたしなの?』
残酷な音が聞こえた気がした。