表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/156

赤いルージュ



 バタバタ動かすけど、拘束具に邪魔されて思うように動かせない。


 『あまりあばれないでください。……と言っても私の言葉、聞こえないでしょうけど』

 「ぐーぐぐうう」

 『ふふふ。まるで動物みたい。堂上さんの娘さんでも(・・)そんな獣みたいな遠吠え出せるんですね』


 楽しそうに微笑む女は、あたしに見せていた表情とは正反対な別人を演じているようだ。

 勿論、拘束されているのは、全身。両手両足も含まれる。当然だが……。


 白いベッドに閉じ込められたあたしに女はゆっくりと近づき、耳元でこう囁くのだ、もう少しですよ、生まれ変わるのは、楽しみですね、ミカサ?と。まるで子供をあやすような囁きに反吐が出てしまいそうになる。あたしはあー、とかうー、とかしか言えないのに、直観で、体でヒシヒシと感じているみたいだ。

 

 手の感触が全身へと広がっていく。最初は頬を愛でる。そして下に降りていき、右手首へと流れていく。服を着ていたはずの私は、いつの間にか、誰かの手によって、裸にされているみたいだ。


 『痛くないですからね、注射をしましょう』


 楽しそうに、まるでおままごとをしているようだ。何かを手にし、キラキラと光る液体を入れている。何も考える事が出来ないあたしには見えない、知らない光景だったのは言うまでもない。


 「あああああ」

 『はいはい。もう少しですよ』


 待って、待ってと母親みたいなあまったるい口調で、余韻を残しながら、離れたと思ったら、再び近づいてくる。そしてあたしの右手首を摩って、コットンに垂らした消毒液で軽くふいてくる。通常ならチクッとする。大した事のない痛みのはずなのに、刺された瞬間に、肉がはちきれるような、ブスリと言う奇怪な音が部屋中を支配している。


 「ぎゃあああああああ」


 声にならない叫びが永遠に続く。何分経っても、何時間経っても、何日経っても、解放してくれる様子なんてない。これは地獄、そう思うしかない。理性や思考が砕けても、防衛本能は残っているから、人間とは不思議な生き物なんだ。


 ドクドク流れていく液体の色は何色なんだろう。見てみたい、知りたい。でもその好奇心さえも許してくれないのが現実だ。その当たり前の事を考える事すら、ゆるされないのだから。


 それがあたし御笠(ミカサ)が殺人兵器ミカサへと堕ちた瞬間だとも気付けずに。

 血管を渡りながら、加速していくのは狂気と喜び。


 「あ……ああ」

 『いい子ですよ。慣れてきたでしょう?『ツォイス』は人間の体内に注入すると身体を変異してくれるの。今回は脳をいじる他にも、プレゼントとして、この『ツォイス』を貴女に託した。好きに使いなさい。簡単に人を殺めれる』


 現状のあたしに何を語りかけても、理解出来ないのを知っているのに、永遠に説明し続ける女の唇がニヤリと微笑みながら、反射する。


 赤いルージュが光と溶けて、夢になっていく……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ