言葉の余韻
あたしの知らないところで、気付かないものが動いている。
その事実に気付く事なんて出来なかった。
周りの大人達が気付けないように仕組んでいたと言うのが正しいのかもしれない。
あたしの父を含む、人達がね……。
「あの……この拘束具はなんですか?」
『少し痛みを感じるかもしれないので、怪我しないように貴女を守る為ですよ』
「……そうですか」
『心配しないでください。人体実験と言っても、殆ど影響なんてありませんから』
「あの……」
会話の流れを折るのはあたしだ。どうしても違和感を感じてしまう。不安と言うよりもこの空間にいる大人達全員が敵に見える、そんな感覚だった。
『どうしました?』
あたしから見たら白衣を着ているこの女性の目が怪しく光っているように思う。まるで獲物を捕らえるように、噛みついてくるように。感情の高ぶりをギリギリまで抑えているような、恐怖を感じる違和感。聞いてみたらいいのかもしれない、どうしてそんなに楽しそうなんですか?って……。
直観で感じるのは、聞いてはいけないという事。聞いてしまったら『後戻り』出来ないような気がするから、ここは静寂を保つのが一番なのかもしれない。
自分から乗りかかった船なのだから。何も恐れる事はない。血管に特殊な『液体』を注入する事により体を変異し殺人兵器に変えていく。それも楽観的に考えていた。脳にはマイクロチップを入れ、感情を安定させる為に、壊れぬように、意思を守るのだと説明をする。
リスクのある事だけど、もうどうなってでもよかったんだ。
例え自分が消えようと、狂おうと、そんなの大切な事ではないのだから。
一番重要なのは『復讐』出来るチャンスを与えてもらったと言う現実。
「……いえなんでもないです」
『?』
相手は首を傾げながら、言葉を発してもいないのに、威圧をかけ、あたしを縛っていく。ここに来てしまった時点で、あたしは籠の中の鳥なのかもしれない。
「不安になっちゃって聞いただけ」
『ふふふ。堂上さんの娘さんでも不安になる事あるんですねー』
なんだろう、少し嫌味が混ざっている気がする。娘さんでも、ってあたしは特別な存在じゃないし、不安になることって。純粋に真っすぐ言うのなら、不安なんですね、とか、不安になるんですね、で文末を終わらせばいい。それが違う終わり方で、含みがあると言う事は、そこに見下しと感情の歪みが入っている可能性がある。
高確率でね、白黒で言えば『黒』に近いと思うよ。
言葉の、会話のふしぶしで人間の本性が出るって知ってた?
本当の姿を隠して『いい人』ぶるなら、暴走したほうがマシだよ。
人間らしくて、あたしは好きだな。