不安の象徴
血潮の中に新しく生まれゆく命がある。ドクンドクンと脈打ちながら覚醒の時を待ち続けた心は踊りながら桜のように舞い散る。キラキラしている幻想的な空間の中で壊れたあたしが生まれた瞬間だった。
光のミカサと闇のミカサ。二つのミカサが混ざり合いながら『ゆち』の闇を継承する。
あたしはどうしたんだろう。何も見えない。ここはどこだろう。不安なんてないけど、安定もしない宙に浮いているような感覚。
遠くで誰かの声がする。誰の声だろう。周りの雑音は他人の声だと思う。その声を辿っていくと主の声を発する人物の名前を呼んでいるのが分かる。
『ミカサ、ミカサ』と……。
あたしの名前もミカサ。同じ名前でよばれる見えない人は、周りの人達になにをしているんだろう。暗闇の中に閉じ込められているあたしには何も見えないから、状況を把握する事も、何も出来ない。
ふと疑問に思う。あの研究所であたしと同じ名前の人なんていたっけ?と。疑問は不安になり、揺らいでいく。それはまるで人の心のように。
暗闇に染まっていくあたしの存在。浸食されているみたいで、何だか怖い。外に出たいの。ここにいてはいけないと直感的に感じるのだけど、何も出来ない自分だけが取り残されてる。体を動かしているはずなのに、声を出しているはずなのに、広がるのはただの無音のみ。
――まさか
嫌な予感がするの。あたしが声を発しようと言葉を紡ぐ度に、周りに『ミカサ』と呼ばれている人物も何かを言っている。まるであたしとリンクして繋がっているみたいに。邪魔をしているみたいに。あたしの声が回りの人間達に届かないように、被さってくるの。
それだけじゃない。体を動かそうとすると、耳に届くのは叫び声。誰かが泣いてて、もうやめてとか悪かったとか、化け物とか、暴言と泣き声が耳を掠める。その度に心臓の音が深くドクンと脈打つ。
あたしが声を出そうとすれば、ミカサも声を出す。
あたしが動こうとすれば、ミカサは暴れている。
繋がってて、あたしの視界に映るのはクロの世界。闇の世界。周りに人なんて存在しない無の世界。
色々な事を耳で捉えれる情報をパズルのピースみたいにはめ込んでいくと、一つの答えに繋がっていく。
「この皆にミカサって呼ばれている人って……もしかして。あたし?」
声にならない心の声で暗闇に問いかけてみるけど、何の返答もない。
その代わりに、自分の心臓の音が少しずつ加速しながら、音を発していく。
不安の序章のように、深く深く『ドクン』と……。