魅惑の味
崩れていく。あたしの心も脳も、体も記憶も、そしてそして……
あ た し は だ あ れ ?
全身に突き刺さる釘が変形しているようにあたしの体内を浸食していく。指の先から脳へと。足の先から瞳へと。何かよく分からないものに支配されていく感覚を感じる。
なんだろう、これ気持ちいい。全身に無数の穴が開いていく。小さな穴が広がり、ポタポタと血を垂らしていく。まるでそれに血液を吸われているみたいに感じるのは、勘違いなのかな?
遠くで人間達の囁き声がする。何て言っているのか理解する脳みそもない。欠損している。あたしの心と同じで壊れていくの。
まるで誰かに屋上から突き飛ばされて、グシャリと叩きつけられるような感覚。人間から血肉に変化するような素敵な音が聞こえてくるの。
あたしはおかしくなる。おかしくなってる。おかしくなっていく……。
笑え笑え
壊れ壊れ
崩れ崩れ
忘れ忘れ
微笑め微笑め
あたし達は壊れて、闇へとドアを開けるの。その先に何があるなんて知らない。考えるの面倒だし、どうしてこのあたしがそんな事に時間を割かないといけないの?訳が分からない。理解不能。
それよりも、もっと感じていたい。この喜びを。体に突き刺さったものはただの釘?そんな訳ない。これは普通の存在のものではない。じゃないとこんな快楽と愉悦を感じる事ないもの。
頭が捻じれていく。弾けていく。ピストルを当てられ、銃弾が脳を破壊するように、パーンて粉々になるの。あたしの思考はもう普通じゃない。
ねぇねぇ普通てなあに?
ブツブツ呟きながら、あたしは本来の姿へと戻っていく。ただの人間のコピーだった『ミカサ』……そうあたしが闇へと落ち、ある意味人間として覚醒した瞬間だったの。
それも普通の人間じゃない。簡単に言えば『廃人』に近い。
ブツブツ呟く声が木箱の中をグルグル回りながら、あたしの体内へと戻って吸収されていく。
こ わ れ る
何これおいしそう。
あたしは自分の腕から流れている赤い飲み物をゴクゴクと飲み干そうとしている。
赤く赤く、美味しいジュース。
少し鉄みたいな味がする独特な飲み物だけど、これ凄く美味しいし、素敵なの。
だって口の中に広がって甘味も感じるんだよ?
あ た し の 血 お い し い ね
「あはははははは」
皆も飲んでみる?