見えない音
自由なんて何もなかった。
あるのは黒い黒い闇の果てだけで、その先に光なんて、希望なんて存在しなかった。
バタンと閉められた蓋があかないように、誰かがガタンガタンと何かを打ち付けている。
あたしは、不思議に思いながらでも、何も不安なんてない。
初めてだったの『人間』に興味を抱いたのは……あの雄介って人は面白そう。
今まであたしの見てきた人間の中で一番不可解でまか不思議。
人間であって人間らしくない、そんな人間。
なんだろう、あたし達と同じ匂いがする。
何かに縛られて、もがくたびに食い込む血肉のように、美しく、残酷で、残虐なの。
美味しそうな『血』の匂いに塗れて生きている人間のような気がする。
カツンカツンと何かを打ち付ける音がする、少しずつ変化していく音が鼓膜を刺激しながら
夢見心地な空間を与えてくれる。
なんだろう……これ、凄く落ち着く。
そう思いながら、瞳を閉じると木箱を伝って人間の温もりを感じた気がした。
真っ赤に塾れた果実のように、人を惑わす媚薬のように……。
少しウトウトしているあたしを起こすのは意外な感覚だったの。
先ほどまで小さい音で木を伝って体に振動するような音を感じただけだった。
音は遠く、小さく、身近に感じないくらいのものだったから、何も怖くなかったのよ。
そう、恐怖なんて何もない。あたしは人形なのだから。
人と深い付き合いをする事で、少しずつ人間よりになっている自分に気付く事なんてなかった。
当たり前なんて思う事が人形の立場からしたら理解出来ない内容で、行動なのだから。
人間の事を少しでも理解してしまうと言う事は、あたしそのものが人の影響を受けているんだと思うの。
実際、生きている人間達から切り落とした新鮮な両手両足と、新鮮な状態で保存していた『脳』を取り入れているあたしは、人間そのものなのかもしれないと今なら思う。
その事実に、もっと早く気付くべきだったんだけど。
気付けずに、人間の欲望に埋もれ、利用され、壊れてしまったあたしには、もう届かない。
復讐の形。
そうあたしが一番、奥底で願って、望んでいる形であり、思想。
誰も考えもしない、何も思いはしない、あたしも理解出来ない、周りも……
誰も助けてくれない、永遠の闇が身体を支配し続ける。
木箱を貫いてあたしの身体に突き刺さる無数の釘が美味しい、美味しい、と血を鱈腹飲み干そうとしている。
あたしの血を、吸って、化け物へと変貌するそれは、破壊へと誘うの