釘打ち
打たれた釘はあたしの喜び。
打たれた釘はあたしの体を貫く。
頬を
手を
足を
突き刺して
赤い涙を流させる
それが気持ちよくて
心地よくて
笑う『ミカサ』しかいなくなった
フラフラとする脳、意識、心、隠れるように、見られないように、閉じ込めるように『雄介』に言われた通りに蓋のない木の箱に入る。
ここにおいで、私がミカサ、君を助けてあげる。
その一つの言葉に依存したあたしは自分が気付かないうちに『人形』から『人間』へと成長しているのかもしれない。
『木で出来た箱で、子供一人分の大きさの箱だよ。そこに君は隠れ続けたらいい。私が君に本当の『自由』を与えよう』
「自由?」
『今のミカサには理解出来ないかもしれない。でも少しずつ分かっていくよ?』
「うん」
『私の言う事だけを聞けばいい。木箱の中で待ちなさい。例え『どんな事』をされたとしても、騒いではいけないよ』
「うん」
あたしは雄介の言葉を針時計が刻むような音のように、感じていた。
人間の言葉より、チクタクと同じ速度で刻む時間のように。無表情。
『君は自由を手に入れる。その為の犠牲は仕方ない。だから行きなさい』
魔法のように包まれている言葉達。操られたあたしの身体に無数の鎖が絡みついて壊していく。
無表情になる。グシャリとあたしの邪魔をする人間達を『鎖』は吸い尽くす。
あたしの身体の一部のように『生きていて』邪魔をする人間達の血潮をチュウチュウと吸い尽くしている。
ああ、美味しい。
ああ、美味しい。
心は踊る。生きている人間が『瓦礫』になる。勿論手を下しているのは『ミカサ』そうあたし……。
何、これ気持ちいい。
赤いの沢山。
そうやって壊れて、赤く染まる華を画面越しに見つめながら、微笑む人がいる。あたしの様子を伺いながら、まるでドラマを見ているように、楽しんでいる。
『すごいですね。ここまでとは……』
声を震わしながらも冷静を保とうとする男は、もう一人の男に呟きながら、問いかける。
『こうなる事を予測して、ミカサを『飼った』のですか?』
しかし男は何も答えない。ピクリともしない。異変に思ったのかゆっくりと表情を確認する為に覗き込もうとする。
『ひっ』
なんという事だろう。目は虚ろ、そして瞳からは呪われたように『赤い涙』を垂れ流し、口には無数の針が刺されている。先ほどまでの男の姿とは異様で、不気味で、それでも美しく、芸術品に見えたのは言うまでもない。
カクカク震える男と血に喰われた男の威容な光景があたしの脳裏に浮かび浴びながら、クスクスと微笑んで楽しんでいる。
あたしがされた事と同じ事をあなたにも教えてあげる。