おじさんとの出会い
怒鳴り声は静寂へと移り変わり、あたしはゆっくりと深い夢の中へと堕ちていく。
先ほどまで複数の音色が耳を支配していたのに、無音に感じるのは何故だろうか。
寒さなんて感じない。鼓動なんて動かない。涙なんて溢れない。
あたしは強い、強くならなくてはいけない。
楽しみと口走るのに、それとは違うモノが作られていくような感覚がする。
ガタンゴトンとあたしが入っている『木箱』が動いていく。
中に『ミカサ』が入っているのに気付かない、もしくは気付かない振りをしている。
圭人の関係者なら気付いていないだけだろうけど、おじさんが素敵な言葉をプレゼントしてくれていたから違うと思うの。
コツコツ毀れるのは人の欲望とあたしの涙、そしてヒールの音。
目を瞑り、息を潜めながら、時を待つ。
『私の所へおいで。そうすれば君の会いたい人に会えると思うよ』
その言葉を信じて、眠り続ける。
爆発音は過去の記憶
人の命は枯れ木になる
微笑みを零すのは誰?
あたしが『おじさん』と呼んでいる人と出会ったのはまだ『ゆち』がこの研究所で保管されていた時だった。圭人はその人に媚びを売りながら、丁寧に現状を説明しているようだった。外の人間に見せる表情はあたし達の見た事もない顔。表の圭人を初めて見た気がした。
黒いスーツに黒髪の高身長。
どうしてだろう。ずっとその人から目が離せない自分がいたんだ。微笑んでいるはずの『笑顔』は作り物のようで、演技のようで、なんだか怖く感じた。
まだ自分の存在も、研究所が何処かも分からない状態だったから、ただ環境の波に揺られて、流されるしか手段を得られなかった。
そんなあたしの視線に気づいた『その人』は目線を合わせ、近づいてくる。
少しずつ、ゆっくりと……。
闇に塗れた笑顔を振りまきながら、圭人の話す言葉なんて聞こえていないみたいに。
あたしを見つめている……。
(不思議な人間)
心の声は本音の声。口から毀れる音は破壊の序章。
『君、名前は何?』
「知らない『おじさん』に名前教えちゃダメなんだよー」
脳は大人に近い作りになっているけど、欺く為には子供の振りをするのが一番てっとり早い。
本当のあたしをこの人には見せてはいけない。知られてはいけないと考えなくても分かる。
人間達はどうして気付かないの?
この人笑っているように見えて、目が笑っていない。
口角をあげて笑顔を意図的に作っているだけ。
誰も気付かないのに、あたしは気づける。
あたしと同じ匂いがする……。
それがあたしと『おじさん』との出会いだったの。