両極端
あたしが微笑むと彼は苛立つ。その姿がおかしくて、腹を抱えながら笑い続けるあたしが彼の瞳に映りこんでいる。『壊命』に固執しづぎている彼の存在は『からかいがいのある人形』そのものだ。ブリキに近いかな?あたしが動けばそれに合わせて、その通りに行動してくれる。魔法がかかったおもちゃそのもの。ねぇそんな感情を荒げて話しても大丈夫なの?貴方の兄の雄介は、そんな行動しないのに。少し遠まわしだけど『カマ』をかけただけなのに、いとも簡単に本当の姿を見せるなんて、なんて甘いのだろう。
「そんなんじゃ兄を演じる事なんて無理だね。慶介は雄介になれない。まぁ反対ならなれると思うけどね」
全てが見えているあたしにとって、最後のアクセントが彼の心を揺さぶる為に大事な調味料。そうやって言葉で味付けして、美味しく頂かないと『ご馳走』にありつける事は出来ないの。
『……』
「ふふふ。都合が悪くなると無言に逃げる。ね?図星なのでしょう?」
『お前が『ユウヅキ』か。私の欲しかった『夕月』とは別物だな。彼女はこんな煽るような真似しない。もっと知的だよ』
溜息を吐きながら、あたしの一言で冷静になろうと努めようとする彼が子供で、可愛くて、もっともっと重圧をかけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたい衝動に駆られてしまう。本来なら責めて、責めて、責め続ける。だけど今回は別。慶介、貴方にチャンスをあげるわ。性格は違えど雄介と瓜二つの綺麗な顔をしている貴方を狂わせたくないから、今回は身を引いて、聞いてあげる。
「クスクス。それは慶介『貴方』から見えている『夕月』の姿でしょう?他人の庭は美しく思うもの。果たしてそれが真実なのかしらね」
『何かを知っている口ぶりだな』
「さぁ?貴方には関係のない事よ。あたし達のすべき事が終われば『夕月』は眠りから覚める。その時彼女に聞けばいい」
耐えれないと思うけどね。言葉の弾丸で『夕月』をころすのは貴方自身。そう企ててあげる。今の彼女が昔の記憶を思い出すのは危ない事だし、体と精神が耐えられるとは到底思えない。それでも聞きたいのなら彼女を壊して『廃人』にしてでも、無理矢理聞いたらいい。まるで脅すように、残酷で優しい罪の味。
その続きを考えただけでも『ゾクゾク』する。なんて快楽、快感なのだろう。生きている人間が体を失った『中途半端』な人間の心を崩壊させて、吸収していく。まるで畑に肥料を与えているように。素敵な土台作り。
『お前に関係ない』
「人が親切に教えてあげているのに、冷たいなぁ」
両極端な感情を抱く『あたし達』がいる。