内緒の呟き
道化師
体が動かない
動けない
動かして
私のかわりに
歪む体
思い切り砕いて
再起不能にするまで
貴方の物
私は道化師
命じられるままに動く
気持ちいい風が吹いた気がした。締め切った部屋の中に風なんて吹かないのにね。
『お前は誰だ』
「あはは」
『夕月か』
「あはは」
『笑ってないで返答しろ』
「あたしは夕月であってユウヅキでもある」
『何を言っている?』
「結果『夕月』と言う事だよ。雄介さん」
『何故俺の名前を……』
「情報の出どころは考えなくても分かるのでは?」
『……あのバカ。口を滑らしたのか』
「雄介……と呟いた後慶ちゃんと言い直してた。まだ子供だね」
『成功したんだな。夕月がこの体で存在していると言う事は』
「癒智をこの体へ戻す気ないでしょう。捨て駒のように感じるのは気のせい?」
あたしはユウヅキ。夕月の記憶と心を引き継ぎながら、役目を果たそうとしている人形。枯れた命は潤いを帯びながら、再び咲き乱れる。それは誘惑と崩壊の序章。
『あれはあれで使い道がある』
「あれ呼ばわりなんだね。可哀そう」
『俺は…いや私は夕月、お前をずっと欲しかった』
「へぇ。何故?」
『お前は俺の知りたい事を知っている。そんな気がする。当初は美しいから欲しかった。だが話をしていて確信した。お前、壊命の事を知っているな?』
「一つ教えてあげる。あたしの名はカタカナでユウヅキ。漢字の夕月はいないわ」
『意味が分からない』
「不老不死。分かるでしょ?あたしは死ねないの。年も取らない。この癒智の身体と同じ。化け物なのよ。でも夕月は違う。人間だもの。夕月はねあたしの一部になっているの。貴方が知りたい事を知っているのは目の前にいるあたしだよ。夕月は何も知らない。ただの抜け殻。そう言えば理解出来る?」
『余計分からない』
「そう。なら分かるまで悩み続ければいい。どうせ骨の瓦礫が終焉の時に、貴方の知り合いが新しい幕を開けるだろうから」
『私の知り合いだと?』
「そそ。雄介……いや慶ちゃんと言われていたから本当の名は『慶介』だよね。あの時の兄弟の生き残り。そうでしょ?」
『……何を知っている』
「内緒」
ふふふと微笑むあたしがいる。それを睨む雄介と呼ばれる偽名を使う彼が存在している。あたしは今生きている『夕月』の人生を壊すつもりはない。だけどあたしと同じ運命を背負う『癒智』と言う少女は危ない存在。だから夕月の身体を動かそうとするあの子供を、喰らわないといけない。
あたしの養分にして、この癒智の体を眠り続けている『夕月』に明け渡す。雄介が欲しいのはユウヅキではなく『夕月』の方だから。あたしがダルマになった『あの体』をもらうの。そして保管する。
(それがあの人の願い……)
それはこの物語では語らない、次のお話。
内緒の呟きなのよ。