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醜い夕月



 全て壊れてしまえばいい。

 全て失くしてしまえばいい。

 全て喰らえばいい。

 鼓動も、喜びも、人間としても。

 壊せ、壊せ。

 喰らえ、喰らえ。




 そうやってあたし達はどんどん醜くなって、別の仮面をつけていくの。最初は恐怖しか感じれなかった。慣れていくとそれは違った変化を創造している。ねぇねぇ、あたしは夕月と呼ばれているけれど、自分のものじゃないもう一つの記憶があるの。着物を着ていて、凄く若い。年をとらない自分の姿を夢で見ているの。あれは誰?そして傍にいるのは『ゆち』に似ている人。


 黒髪から金髪にしたのもプロダクションの社長の勧めだったね。あたし達は少し変わった雰囲気を持っているからあたしもよく金髪にしたら似合うとか言われたっけ。あたしは黒の方が落ち着くけど、昔からゆちは言ってた。黒よりも金髪が好き。どうして、なんて聞いてみても『分からない。なんとなく』で終わる言葉。あたしの見る夢の中のゆちも金髪。そして年齢は上だった。双子とは思えないほどに。


 

 若さが欲しい

 永遠の若さ

 潤いが欲しい

 私はあの子の血が欲しい

 飲みたい

 飲みたい

 飲めばきっと

 若さを奪える。


 これって白昼夢と言うのだろうか、現実なのに、夢の中にいる感覚と、目で物事を見ていると言うより、ストーリーが頭の中で映画のように動いている不思議な感覚の中で、頭がぐるぐるしている。あたしは慶ちゃんのドスの効いた低い声から逃げるように、幻覚を見ているのだろうか。よく分からない。ただ思うのはあたしは壊れかけていると言う事実。


 ケラケラ勝手に笑い声が出ている。あたしの口から、あたしの意思じゃない。まるで誰かに体中に糸で操作されているみたい『マリオネット』のようだ。こう言えばいいよ、こう動いたらいいよ、こう話せばいいよ。全てあたしの意思じゃないのに、流されて別人になっていく『夕月』


 低い声が鳴り響く。慶ちゃんの表情をチラリと見ると微笑みながら、あたしのクビに手をかけてもう一度囁くの。


 『お ま え は だ れ だ』

 「あは」


 笑わせてよ、お願いだから。笑いたいの笑いたくて仕方がないの。慶ちゃんの声は震える程の憎悪を感じる。全身にじわりじわりと感情を喰らう獣のように、美しくて、光悦。


 クビをしめる手をどけてくれると助かるのに、あたしが誰か聞きたいのなら、きちんと喋らすように行動しないと、ダメだよ?癒智から聞いた慶ちゃんはいつも冷静で優しいとの事。へぇ、この人人間らしさあんまりないって言ってたけど、どこが?怒りの感情もあるし、ちゃんとした人間じゃん。あたしが今まで関わってきた人達の中で一番『深い闇』を抱いている人間。そう思うよ。


 二人のあたしは重なり合いながら、別々の性格で生きている。

 この体は年をとらない。

 生きた人間からむしり取った実験体なのだから。

 もう誰にも『化け物』なんて呼ばせない。




 

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