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涙の跡




 過去、現在、未来

 全ては繋がって輪になっている

 悲しみを背負いながら、闇の中でもがきながら


 悪夢を見てる





 毎日毎日起きては寝ての繰り返しの中で『癒智』を演じているあたし。

 癒智はあたしの事を『夕月』と呼びながら、身体を交換した。


 慶ちゃんと呼ばれていた『雄介』と言う人物が、あたしの横で寄り添うように眠っている。この人が裏で関わっているような気がする。じゃないと癒智が、あたしに近づいてくる事もないし、全ての糸をひいているのが『雄介このひと』なんだって思ってた。


 そう、あの時までは……。


 現在いまのあたしがその事に気付く程『有能』ではないし、何も分からない無自覚。癒智を操っているのは本当にこの人なんだろうかと疑問に思う位に、違和感があるの。


 『……んん』


 夢の中で何を見ているのだろうか。何かから追われているようにうなされながらも、現実世界へと戻ってはこない。まるで『悪夢』の中にとじ込まれているみたいに。


 『どう……して』


 誰かに呟くように、悲しそうな搾り声があたしの耳を支配して、胸さえも締め付けていく。この感情は何だろうか。体は『癒智』と言う少女のもので、心は『夕月』あたしのもの。まだ出会って間もない『彼』にこんな曖昧な感情を抱くのは普通じゃない。


 きっと夕月も気にいると思うよ?うちらは同じなんだから。


 暗闇に消え、雪兎ゆきとの元へと、あたしの動かない体へと、吸い込まれていった『彼女』は耳元でそう呟きながら消えた。


 (なんで……こんな表情してるの?)


 今は『癒智』を演じるしか道はない。例え雄介…いいえ『慶ちゃん』の指図だったとしても、正体を明かすのはよくない。頭の警告音と胸の騒めきがそう教えてくれるから、演劇にのってあげるの。


 決して『夕月あたし』の意思じゃないから。


 自分に言い聞かす言葉は『毒薬』の言葉なのかもしれない。崩壊しているあたしに残されるものはどんなもので、結末なんだろう。


 (皆が幸せになる方法なんて……ないのかな)

 (ねぇ……ゆち)


 殺風景な部屋の中で残されているあたしは孤高の旅人。横で眠る人は悲しみに塗れた人。そして血の匂いをさせている。恐ろしくも、不思議な人。


 興味なんてない。こんな人に。興味なんて……。


 心と体は反対で、感情に逆らう事が出来ず、誰かに操られているように彼の髪に触れる。その瞬間、あたしの気配に気づいたのか、慶ちゃんが無表情で、機械のように動きだす。


 『おはよう、癒智』


 何もなかったかのように、身体中冷や汗に塗れながら、いつものように元に戻る。

 魘されている時、彼の人間の部分に触れた気がしたのは思い違い?

 そんな疑問を置き去りにしているあたしから逃げながら、慶ちゃんの瞳が赤く染まっていく。


 まるで泣いていたように。



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