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愛してる



 『愛してる』


 全てはその言葉から始まった。その言葉を呟いた女性を少しずつだけど記憶の本棚から溢れ止まる事はなかった。綺麗な髪をしていた。彼女の髪の色は『黒』僕とは正反対の色。兄の雪兎ゆきととお揃いで綺麗な色。名前はたしか……。


 「ユウヅキ」

 「夕月」


 僕の母の双子の妹だと聞いた時に驚いた。母の名前は『ユチ』と言う。日本人で漢字を使わない呼び名は僕の知る限り、母とユウヅキだけだった。


 兄も僕も『ユウヅキ』と会うのは初めてだったから、驚いたよ。母と同じ年のはずなのに、双子で顔はそっくりなのに、どうして年齢を重ねないのかと。永遠の若さをずっと手にしている『ユウヅキ』もある意味『僕』と同じ化け物なんだ。

 

 すぐに同類だと感じた僕は、彼女に近づこうとするけど、その言葉と手が彼女に触れる事はなかった。何故だろう、なんでだったっけ……。


 「ユウヅキさん、綺麗ですね。凄く魅力的ですよ」


 あ、そうだ。僕が声をかけて、触れようとした時に兄の言葉が僕達を引き裂いて、邪魔をしたんだ。確かそうだった。


 「あはは雪兎ゆきとは冗談が上手いんだから。さすがユチの息子さん」

 「冗談なんかじゃないですよ。母と双子なんて…若く言われますよね?」

 「……ええ。まぁ」

 

 無邪気に、好奇心旺盛に子供のように話す雪兎ゆきとを、兄と思えなくなった瞬間だった。僕とユウヅキは同類なんだ。兄さんに何が分かるんだ。化け物は化け物同士でいるのが一番の『幸せ』なんだと……。


 「あたしは年をとらないから。年齢はユチと同じだよ?」

 「年齢を重ねない?」

 「……ええ」


 兄さんにユウヅキの言葉は届かない。ばつが悪そうに言葉を返すユウヅキ。なんだか兄さんに責められているみたいだ。どうして気付かない?彼女は嫌そうにしている。どうして手をとる?彼女は驚いている。どうして唇を奪う?彼女は泣いている。


 傷つけないで。


 僕はユウヅキが兄さんの行動と言葉で傷ついていると思ってた。だけど違ったんだ。兄さんは純粋にユウヅキを受け入れた。母の妹なのに。化け物なのに。


 僕のモノなのに。

 同類なのに。


 どうして兄さんを抱きしめるの?抱きしめているの?どうして微笑んでいるの?どうして、どうして『僕』じゃないの?


 落胆する僕の傍には母がいる。いつもいつもいつもいつも。金髪の母がいる。日本と外国のハーフの母が僕を抱きしめて『愛している』と呟く。


 「ユウヅキ!ユウヅキ!」


 そうやって追いかけようとしても、足が動かない、ピクリともしない。そして蛇のように『束縛』するのは僕の母。兄さんと同じ顔の僕。化け物の僕。赤く光る瞳は残酷にも、母を捉えていた。


 「母さんがいるから、大丈夫。妹の事は忘れなさい」

 「許すの?あの二人を……だってだって」

 「いいのよ。好き者同士の二人なのだから。ほっときましょう」

 「なんで……そんな普通なの?」


 母の言葉でトドメを刺された気がした。

 何も言葉が出てこず、永遠の時だけが動いている。


 「迎えにきたわよ。白兎はくと私の可愛い息子」


 そうやってどこまでもついてくる。

 そして僕の愛する闇さえも奪い『影法師』の名さえも奪っていく。



 どこに流れ着くの?この木船は……。

 母が微笑みながら、寝ている僕の髪を撫でながら笑ってる。


 「もう少しで『会える』よ。夕月と」


 そう呟いたのは気のせい?





 

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