心の血
漂う夢は誰のもの?
儚い夢は流れながら、僕の中へと入り込んでくる。
『憎しみ』と言う名の果実に取り込まれていくんだ。
流れ着く場所は『過去』だった。僕は白い髪を揺らしながら『彼』と話している。全ては歪んで、記憶は曖昧。綻びが生じていて、よく見えない。夢を渡って、渡って、幾人もの『闇』を見続けた僕には驚きだった。初めての感覚で、感情。まさか『自分』の夢を渡るなんて、語るなんて想像もしなかったから、変な気分なんだ。
僕は『彼』より二歳年下の『弟』であり、髪と目の色以外は全て同じだった。赤い瞳はまるで『アルビノ』みたいで、鳥肌が立ちながら、自分を呪ったっけ。時代が時代だったから、周りは『アルビノ』なんて言葉を知らなくて、認知度が低く『化け物』扱いされていたんだ。産まれて、その環境に馴染んでしまった『心』を解す事は不可能。どんな優しい人が現れても、すぐ僕の元を去っていくのだから。
自分の『運命』を呪った。憎んだ。恨んだ。泣いた。泣き疲れて、涙は氷になった。いつもいつも兄の背中を見続ける事しか出来ない僕は、優しい『兄』に嫉妬をしていたんだ。
『どうして、僕の欲しいものを『全部』持っているのかって』ね。
表では『兄さん』と呼ぶけど、内心は違う。まるで他人のように思っていた。人間の醜い感情に支配されていて、一番『汚い』のは自分だと実感してしまう。
『夢語り』として流れ着いて、闇に飲まれて幾人もの『命』を何故喰らっていたのか、今思い出してはっきりと自覚した。
きっと……僕は自分自身を一番憎んで、醜いと思っていたから、それ以上の闇を無意識の中で欲していたんだと思う。
「白兎気にするな。周りの言葉なんて、まやかしだ」
「兄さん……」
口から毀れ出る音は、内面と違う『色』を奏でながら、演じている。いい子を演じて、演じて、どこまで自分を壊していくんだろうか。誰も気付かず、本当の僕の方こそが『まやかし』になるんじゃないかって怯えながら、兄の後ろに隠れて『その機会』を待ち続けた。
(今度こそ……今度こそ……兄さんを)
続きの言葉は予想してくれていいよ。僕の口からこれ以上言うのは責める行為でもあるし、過去を否定しかねないと考えているから。
アヤフヤで幻想的な月が怪しく微笑みながら、僕を包んで、愛してくれた。
人間から愛される事のなかった『白兎』を唯一愛してくれた朧月
闇に包まれながら『かくれんぼ』をする僕を追いかけ続ける『光』が眩しくて、余計悲しくなった。
ああああああああああああああ
「思い出し……たくないんだ……人間の僕なんて」
僕の心の血が止まる事はなかった。