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分離した魂


 水面は揺れながら私達を誘う。赤い水面の奥に見えるのは『瞳』だ。人間の瞳なんて可愛いものじゃなくて化け物の瞳。そう影法師……いいえ『白兎はくと』と同じ瞳。キィーキィーと壊れかけの『木船』は私と白兎はくとを水面へと放り込もうとしている。


 (いいわよ。私を飲み込んでも)


 木船は普通の『木船』ではない。複数の人の魂を宿し『自我』を持った木船だ。私達を落とすなんて簡単に出来てしまう。人の『欲』まみれの木船。醜く、歪んでいるけど、美しく感じるのはこの赤い水面のせいかもしれない。


 赤い心臓と青い心臓、そして赤い水面と青い水面。影法師から徐々に人間の姿に戻りつつある『白兎はくと』は意識を失い、自らの夢の中で遊んでいるのだろうか。私は『ゆち』そして『現代いまの夕月』は私を知らない。それでも……会いたいと願うのはどうしてかしらね。


 いたいいたい♪

 どこにいても傷だらけ♪

 後ろの貴女はだあれ?♪


 懐かしい『替え歌』が耳を過る。これは『双子』として産まれ落ちた『一代前』の前世の記憶。気づいているのかしら白兎このこは……。


 「かごめかごめの替え歌。よくユウヅキが歌ってた。ユウヅキは夕月として産まれ落ちた」


 聞こえていない。誰にも私の語りは。遠く遠く水面に沈んで、心と一緒に消えてゆく。


 それでいい。それがいい。


 眠り続ける白兎はくとの髪を撫でながら、私は微笑む。目を瞑れば『ユウヅキ』に会える。目を開ければ私の双子の妹だった『ユウヅキ』の生まれ変わりの『夕月』に会える。


 やけどやけど♪

 どこに逃げても♪

 火だるま♪


 『ユウヅキ』が笑いながら、私達の母だった『それ』に火をつける。


 「ユウヅキ……しんじゃうよ?」

 「いいのいいの。しなないよ。この人化け物だから。消毒しないといけないの」

 「お母さんだよ?」

 「化け物だよ?」

 「ユウヅキ!ユウヅキ!」

 「あはははああははあはははははは」


 キィーキィー木船の音が私を起こす。まるで化け物になる前の『ユウヅキ』のように。過去は消える事などない、そしてその繰り返しで『ゆち』と『夕月』がいる。人間は悪意を持ち、二人に近づいた。そう『あの時』と同じ結末になるのかもしれない。人は『ゆち』を欲しがった。私を欲しがった。そして欲望を満たせないと理解すると、残酷な行動を起こしながら、ガラクタにかえた。


 「眠り続ける白兎はくとは可愛い。本当に雪兎ゆきとにそっくりね。さすが私達の子供」


 誰にもばれない。誰にも気づかれない。誰にも聞こえない。


 「若い心、若い魂、若い体、若い命。私のものだ」


 もう一度息子に会う為に、この身体を使い流れ着いた。そして……。一つの魂が分裂して二人の人間を創り上げた。そう私は『ゆち』であり、現世では植物人間の『雪兎』と影法師へと堕ちた『白兎はくと』のお母さん。


 「あの身体には戻らない。例え雪兎ゆきとが待っていても……。あの子を苦しめるだけ」

 「だからだから」

 「白兎はくと貴方に会いにきたのよ。ゆちとして」

 「不思議ね……。私がゆちでゆちが私なんて。魂なんて分離するのね。初めての経験」


 何も記憶を継承しなかったのは頭の回らない『ゆち』そして全ての記憶を持っているのは私だ。夕月を選んだのは『ゆち』が幼い考えをしたまま育ったから。私が知能を持ち、ゆちは純粋さだけを持っていた。二つに分かれたものは最後は一つになる。年が離れているのに、どうしてだろうか。人間とは不思議なもの。そして恐ろしくもある。


 「私達の年齢が違うのも、私の息子達の存在も、何か理由があるのかしらね」


 そう呟くと黒い霧と共に風が吹く。白兎はくとの身体を纏っていた闇は、徐々に溶けだしながら、木船を貫き、水面に沈んでいく。そして私も飛び込むの。白兎はくとを残して。

 美味しそうな匂いがするわ。


 闇の果実。

 次は私が影法師。




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