血筋
私の辿り着いた『闇』には赤い心臓と青い心臓がある。どちらもごちそうではあるが『赤い心臓』は人の魂、命に近いもの。そして『青い心臓』は思い出してはいけない禁断の果実。死した私達。得に影法師にとっては毒薬に等しいの。長い年月を漂いながら彷徨っている影法師は人としての記憶を殆ど忘れている。闇に浸食されているから記憶が曖昧になり、溶けていくの。
私は影法師の知っている『ゆち』であって『ゆち』ではない。名前も魂も同じだけど、影法師の観察していた『姉妹』とは違う。あの二人は腹違いの子供。母親が違うの。そして育ての親も違う。不思議でしょう?親に騙されて『双子』と呟かれた『あの二人』実は双子なんかじゃない。でもある意味血の濃さからするとよく似ているのかもしれない。双子じゃなのに何故顔が瓜二つだと思う?不思議に思うけれど。結論的に言えば『そうなって当たり前』なのかもしれない。『ゆち』と『夕月』の母親達こそ『双子の姉妹』だもの。全てそっくり『性格』を除けばね。あの二人の母の話をここで語ってもいいけど、それはまた別の話。闇に流し夢語りとして滅ぼしていきましょう。
きっと彼女達にも会える事があると信じて、待ち続けましょう。
「うふふふ」
私はもがく影法師を見つめている。青い心臓を飲み込んでしまった影法師は頭を抱えながら叫び声をあげている。いい音色。凄く綺麗。
「あたまあついあついあついあつい」
「大丈夫よ。影法師。もう少しで白兎に戻れるから」
「いやだいやだいやだいやだ」
「怖くないわ」
微笑みながら影法師から人間白兎に戻りかけているあの子を抱きしめる。『ゆち』はいつでも闇で生きる。それは繰り返し。身体をかえて、性格を変えて、この世を渡り続ける。死んだらここに辿り着く。そして影法師と出会う。全ては決められた事。定め。因果。
「今回の『ゆち《わたし》は早くしんだね。代わりに夕月が生き延びた」
「え」
「ふふふ。なんでもないわ。痛み慣れてきたのね。匂いが変わってきてる。人の匂い。美味しい匂い」
「……」
「白兎はゆっくり『思い出』を満喫すればいい。私は傍観者になるから」
「……」
無言で固まったあの子は、少しずつ記憶の扉を開いたのだろう。夢語りが自分の夢を渡るなんて不思議かもしれないけど。そうしないとここでの安定は消えていく。この魂が『ゆち』として、再び産まれ落とす為に必要な行動の一つなのだから。
「今回は双子の姉妹の子供として私達が産まれたか。産まれた日時も顔も同じだから。双子と変わりない。ただ血筋が違うだけ。少しね」
『ゆち』は姉の子供。『夕月』は妹の子供。
「少し前世とは形が違うけど、今回は今回で面白いから、いいか」
私はそう呟きながら、煙になり眠りにつく。白兎と共に。