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影法師

 ワタシタチは何度も『同じ事』を繰り返す。産まれ、朽ち果て、人の野望に飲み込まれ命を弄んでいる。地獄のようで、それでも何故か心地いいのは、慣れてしまったのかもしれない。例え『記憶』を受け継がれていなかったとしても、無意識の中で繰り返すのが双子のワタシタチだ。さて問題。ワタシタチとはどのワタシタチなのだろうか。妄想の中で揺らめきながら、影法師が質問をする。両目は赤く、まるで猫又のような瞳をしている。影法師は闇の住人で、夢語り。いくつもの魂を渡り歩きながら、その命の積み重なっているホンモノの記憶を全て、盗み見しながら『愉快だ愉快だ』とケラケラ笑う遊び人。勿論人のワタシタチは『影法師』の存在を知らない、知る訳がないのだから。それでもワタシタチのどちらか一人は夢の中で出会った事がある。それは夕月なのかゆちなのか。記憶が混ざり魂が欠落した人形には到底分かる訳ない。黒い霧が影法師を包んでいる。それを『ワタシ』の右手が触れると、彼は人型になり、ワタシに微笑んでいる。


 「君達は面白い。愉快だ愉快だ」

 「ワタシタチは面白くない」

 「ボクには愉快だ愉快だ」


 どんな言葉をワタシが吐こうが、彼は笑い続ける。それが影法師。同じ言葉を繰り返しながら『現在いま』の私達の状況を黒い鏡を通して、現実世界を眺めている。夢に閉じ込められた『影法師』は元は人間だと知ったのは祖母が死ぬ前に呟いた言葉。私は全身を失い残ったのは心だけ。妹を見つめながら、行く末の結末を眺める事しか出来ない無力な存在。


 「だって……私はころされたのだから…」


 悲しそうに呟く声はどんな呟きや物音でも、耳のいい影法師には隠せない。どんな小さな音でも聞き取る事が出来るのだから。地獄耳なんてものじゃない。


 「ころされたっておいしいの?」

 「……」

 「ねぇねぇゆち。おいしいの?」

 「まずいよ」

 「まずいのか……いらない」

 「黙ってくれない?お願いだから」

 「だまるってなに?ゆちゆちゆちゆち」

 「もういい」

 「そう。ゆちも食べる?おいしいよ」


 人型になった彼はまるで『雪兎』そのものの姿をしている。いつもは人の恨みや闇を吸っているから全身が闇に溶けて一体化している。ただし特徴的な目だけはいつもギラギラと光っている。獲物を探す影法師。遊びを探す影法師。彼の今の見た目はまるで『アルビノ』言葉は赤子と同じ。一番幼く聞こえる。彼の内面はどうだか分からないけれど。隠しているものが沢山あるのは事実……だと思うの。


 「はい。ゆち『ごちそう』だよ」

 「……いらない」

 「たべないと消える。たべてたべて。ケラケラ」


 スルリと纏わり付く影法師の闇にあたりそうで、眩暈がし始める。心の想い一つでどんな行動も出来る。彼は元人間の中でも、死んだ人間の中でも、一番の適合者。はじめの人。はじめの闇。はじめの夢。はじめの命。最初の化け物。


 「ううぐうう」

 「ほらほらおいしい。ごちそういのち。たべて」


 食べてと言っているが影法師の言葉の意味は『食べろ』の意味。真っ赤に実る果実は命の形。見た目は人の心臓に似てて、匂いは血そのものの香り。死んだ私は、ここが何処か分からず、死んだ事にも気付けなかった。影法師に会うまでは。心、魂を保つ事も知らなかった。初めて出会ったのは私が消去される手前だった。影法師はケラケラと笑いながら、私の口に果実のような心臓のような異物を詰め込み、飲み込むまで口を闇に手を借りて、抑えていた。


 「たべて。きみ、きえる。生きるため。たべて」


 ゴクンと飲み込んでしまった私の喉は焼けるように熱い、まるで全身が火ダルマになっているように、その苦痛に耐えられず、自分の喉を爪で掻きむしる。


 「だめだよ。がまんして」

 「ああああああああああ。あづいいいいいいいいいいいい」


 ケラケラと笑う声が私をここに閉じ込めた。苦痛に感じていた『食事』も今では美味しく感じる。まるで私も『影法師』のようだ。




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