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ダルマ

 どうしてだ。何故上手くいかない。私のゆちは何処に行ったんだ。あの美しい歌声と綺麗な笑顔の彼女は私の手から毀れて、消えていなくなった。私だけを愛してくれると約束してくれたじゃないか。彼女がもっと売れるアーティストにしたのも私が動いたから。プロデューサーとして裏稼業は研究者で表は音楽プロデューサーなんて茶番だ。なりたくてなった訳じゃない。元はこの研究所は祖父から譲り受けたもので私の所有物ではないのだから、自由に生きていたはずなのに。祖父が死んでからと言うもの、ゆちの傍にいれた時間は極端に減り、心も離れていった。私から……。問い詰めると『そんな事ない』とすがりつくゆちはもうあの時のアーティストとしてのゆちではなくなっていた。その瞬間だ。彼女が色あせたように見えて、美しいと思っていたはずなのに、女としての醜さを見てしまった気がした。


 (あの時のゆち《きみ》はもういない。私を愛して、尽くして、歌を歌い続けた彼女は、潰れた)


 そんなゆち《きみ》を見たくて傍にいた訳じゃない。雪兎は本当の事をゆち《きみ》に伝えてしまった。それも夕月が隠れたままで。まるで遠まわしに夕月に聞かせるように…。祖父がいた時はよかった。一か月の内の半分だけ出勤して形だけの『副所長』だったのだから。本業がメインで動かす事が出来たのに。どんどん崩れていく生活に耐えられなくなった。ゆちは私を愛してくれた、あの男が来るまでは。そう雄介と名乗り。祖父からこの研究所を奪った。玄所長。祖父に見初められた雄介を見たゆち《きみ》の態度は徐々に変化していき、いつの間にか私の事を『怖い人』と恐れるようになった。きっと雄介がゆち《きみ》に色々吹き込んだのだろう。簡単に私から離れていく。それが耐えられなかった私は、ゆち《きみ》を呼び出して、全身を鎖で拘束しながら、両手両足を奪い『人間ダルマ』にしたのだ。そう私の愛玩具にする為に。


 私のものだ。誰にも渡さない、渡せない。


 猛烈な叫び声と飛び散る血しぶきを見た瞬間と手に伝わる振動で私は堕ちていった。あんだけ愛していた恋人を自分で手にかけたから。ゆち《きみ》は徐々に衰弱し、目を離した隙に、舌を噛み切り鼓動を止めた。ゆち《きみ》自らの手で、命を捨てた。こんな事になる為に、存在している訳じゃないと呟くゆち《きみ》の姿を思い出しながらも、欲望と嫉妬を止める事は出来なかった。


 「愛しているのは圭人ケイト貴方だけよ、信じてお願いだから」

 「ゆち《きみ》は私の言う事だけを聞いていればいい」

 「ううう、お願い、私をころして」

 「愛しているんだ。手放す訳、ころす訳ないだろう」

 「こんな体、もういらないの。自由にして」

 「……いやだ」


 その光景を冷たい視線で眺める雄介が私の後ろで監視している。この男のせいなのに、どうして、何故。逆らえないんだ、私は。


 『圭人。君、残酷だね。ただの嫉妬で彼女をこんなふうにするなんて……』

 「雄介さん……たすけて」

 『助けたいけれど、俺じゃ止まらないんだよゆち』

 「なんで、なんで」

 『……人足遅かった。もう君のパーツは売られたんだ』

 「え」

 『そうだよな?圭人』

 「胴体だけあればいい。両手両足があれば必ず抵抗する。だからいらない」

 「圭……」

 「その呼び名で呼ぶなよ。君はダルマなんだから」

 「いやあああああああ」


 ただ愛していただけ。それなのに、どうしてこうなったのか自分でも分からない。遊離も私の言う事を聞かない。


 そんな時夕月があの店でゆち《きみ》を探している事を知った。私の心を裏切ったゆち《きみ》よりもっと従順なゆち《きみ》に作り替える為に、夕月は存在している。そう思うしか、心を保てない自分がいた。


 

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