関係崩壊
遊離が呟く。癒智は失敗作ではないと。その言葉は圭人には届かない。オリジナルの『ゆち』にしか興味のない彼は、表面しか癒智の事を見ていない。奥深くに隠れるその真実に気づかないのは彼が変わってしまったからなのかもしれない。昔の彼なら遊離の助言は絶対だった。幼き日、遊離と出会った圭人は助けてもらった恩を忘れ、自分の欲にどっぷり浸かっているのだから、周りが見えていない。そう遊離は考えているし、実感している。
「遊離……何をしている」
「いいえ、何も。考え事をしていただけよ」
「そうか……ならいいんだが」
「ミオとミカサが心配?」
「当たり前だろう。成功品だから、あの二人は。癒智とは違うからな」
その言葉を聞いて、内心笑う遊離がいる。あの二人が成功品?まさか冗談でしょうと。成功品なら二人に逆らったりしないし、一人は癒智を追いかけ、依存し脱走なんてしない。未遂に終わったけど、あの二人の行動と言動を見ても、圭人の理想とは程遠い事に本人自身が気づいていないのだから。癒智の記憶は安定しない。夜中の0時になると別の癒智になる。それはカモフラージュ。夕月と癒智がリンクするように雄介に頼まれて、遊離は逆らえずに実行した。だからこそ夕月をカプセルに保管していた時、遊離に脳内の管理を任せた圭人の甘さが一番の悪。悪の華は咲き乱れる。ミオとミカサを置いて、癒智と夕月がいつか接触し、一人の『人間』になるようにしているのだから。雄介が動いている時点で、今更気付いても、もう手遅れなのに。どうして気付かないのか疑問を抱いてしまう。まさか遊離がいつの間にか圭人ではない雄介を選択していた事実にも。何も知らず、気づかず、妄想の中で鬼と化した圭人だけが取り残される。癒智が『完全体』になれば、ミオとミカサには用はない。あの二人はダミーであり、癒智が『人形』から『人間』へと昇格する時に、再び会うだろう。その時にあの二人は人形に戻る。そうやって雄介の一つの『コレクション』となる。生きたまま人間からパーツを奪い、人間を創造する一歩となった『実験体』であり『模造品』
「ねぇ圭人……」
「ん?」
「私がいなくなったら『悲しい』かな?」
少しの期待を残して、沈黙が訪れる。言ってほしい言葉は一つ。悲しいの一言。遊離の最後の圭人へとメッセージを受け入れるのか確認したいのだろう。
「何を言っているんだ」
「……」
「そんな事を言っている暇があるなら、早く次の行動に移せ」
「……」
「遊離!聞いているのか?」
「圭人…変わったね」
遊離の知っている、好きだった圭人はもういない。そこにいるのはただの狂人。昔の圭人なら悲しいと言ってくれてた。特別視はされていなかったけど、それなりに『大切』にされていたから。
『ゆち』と出会う前までは……。
「もういいよ」
冷たい言葉と悲しみしか呟けない。