音と声
音が聞こえる。響き合いながら混ざり合う音は、どんな音色なのかな?眠りにつきそうになった「あたし」は雪兎の音で現実世界へと戻される。薄目を開くと、少し離れた所で誰かと話している雪兎がいる。何をしているのだろう……。誰とお話しているの?あたしの話し方が少しずつ『子供』に戻っていっている気がする。勘違いかもしれないけど、妙な違和感と、脳が痺れを出してムズムズする。誰かの支配されてコントロールされているみたいに。
(誰と話しているの雪兎…)
呟こうと思っても『防衛本能』と言うのだろうか、今は聞いてはいけない気がしたし、この場であたしがいてはいけないような雰囲気に感じたの。ピリピリしている空気が全身を刺激し、少しの不安を作り出していく。雪兎の音が声に徐々に覚醒していく。それはあたしが夢の世界から完全に抜けきった『合図』でもあるの。
『……それはそうですが、不安はありますよね』
『はい。そちらの言い分も理解出来ます、しかし…』
『いや、助けたいですよ』
『貴方がそこまで賭ける必要があるのですか?自分の命を賭けるとかふざけてる』
『え……証明を送った?何処にですか?』
『貴方の指…今日届く?こちらにですか?』
『何故居場所が…ここは…』
『…賭けるしか選択肢はないと言う事ですか…分かりました』
ピンポーン。雪兎と誰かの会話を邪魔するように、チャイムが鳴り響く。それを聞きつけた雪兎は電話の主なのだろうか。相手の声が聞こえていないと言う事は通話しか考えれないから、電話で合っていると思う。その人との会話を中断し、急ぎ足であたしを起こさないように、チャイムの音の方に引き込まれていく。
『まじかよ…』
そう呟いた音をあたしは聞き逃さない。雪兎の声は若干震えているのと驚いているようだった。ガサガサと何かを開ける音がする。荷物が届いたのだろうか。狸寝入りがばれないように、薄目を開けていた目をしっかりと閉じ、耳から吸収する音だけで確認をする。最初の頃、研究所で保管されていた時とは違う。音が徐々に戻ってきて、今でははっきりと聞こえるまでになった。まるで全ての身体の動きを機械装置で遮断されていたみたい。あの空間から逃れたあたしは少しずつ人間としての感覚を取り戻している。でも…両手両足に違和感があるのは事実。あたしの目には見えるのに、感じる事が出来ないし、動かしているつもりなのに、あたしの瞳から入る情報はきちんと動作しているはずなのに…まるで『映像』を見ているみたいなの。その答えは何も出てこない。ううん、自分でも信じたくない現実がありそうな気がするから、今は知らないふりをしているだけ。もうこれ以上自分を崩壊させたくない。あたしも強くないし、脆いもの。人間だからね、肉体にも精神にも限界があるのだから…。
『…あ…りえな…い……こん…な』
恐怖にも似た雪兎の声が木魂しながら、あたしの心とリンクしていく。