ループする会話
6インチの液晶画面から淡い光が注がれながら、暗闇を少し照らしてくれる。まるで闇夜に照らす『夕月』のように美しい。俺はそんな風景を思い描きながら実験体の『夕月』の美しさを思い出す。あんな綺麗なパーツを持つ女。ゆちの顔を知っているからこそ言える事。ゆちを美しいと思う『圭人』がいるなら、夕月を美しいと思う人もいる事を……。ゆちの代わりなんて、そんな勿体ない表現なんてしたくない、夕月は夕月の魅力があるのだから。それに気づいているのは俺と雪兎だけなのかもしれないな。これが恋敵なら『ライバル』になる所だが、俺にそんな気は更々ない。
(恋なんて面倒な事、二度とするかよ……)
そう俺の心には思い人のしおりが永遠に生き続けているのだかれあ、彼女の代わりになる人間なんていないって事位理解しているつもりだ。10年以上も経つのに、まだ思っているなんて可笑しいよな?だけど人間の感情はそんな簡単な構造で出来ていないし、誰にだって『忘れられない人』位いるから、仕方ないと思うんだ。それを理由にして『誰も愛さない』選択をしたのは俺自身だけど。完璧じゃないからこそ、心の拠り所が欲しいのかもしれない。
それは我儘だろうか……。
色々な考えを脳裏に過らせると、少し頭痛がした。その痛みから逃げるように、現実世界へと舞い戻る。フウと溜息にも似た深呼吸を吐くと、スマホに耳を当て、出るのを待ち続ける。長く続くコールは永遠に届かない想いのようでもある。複雑な感情を持ち合わせながら、闇に消え入りそうになる所だった。そんな時を見計らってか、コールの音が消え、中音の声質が俺の耳を刺激する。
『はい……どなたですか?』
「はじめまして……と言えばいいのかな?雄介と申します」
『あ……あの話を提案してくれた方ですか?』
「そうです。今お時間大丈夫ですか?」
『……はい。夕月も眠りましたし、今ならお話出来ます』
「そうですか……」
夕月……。雪兎の手元には彼女がいる。両手両足を失った彼女が。その名前を聞くだけで、心臓がドクンと跳ねたのは誰にも内緒。冷静を保ちながら『雄介』として演じながら雪兎に『例の件』の話を詰めていく。これは俺と癒智の為でもあるし、彼と夕月の為でもある。四人共が幸せになれると言う確証は実はないのだが、今の環境から脱出する事は出来る。
せめて夕月だけでも……。雪兎を圭人と遊離の手から逃がす方法は考えていない。彼は自分で考え行動が出来る。だから自分で判断して、どう選択するかは彼の問題であり、俺の知る事ではないのだから、そこまで縛る事も、決める事も出来ない。
『夕月を元に戻す方法と言うのは……どのような?』
「現在全てを明かす事は出来ませんが、少しの情報なら貴方に渡す事が出来ます。私と協力関係になっていただけるのならの話ですが……」
『会ってお話は出来ないのですか?』
その返答を聞いて、そりゃそうだろうと納得する自分がいる。名前しか知らない。でも幾人の人物を通して連絡を取る時に俺の立場と少しの情報は流しているから、そこを信じてもらうしかないのだが……。雪兎がそれに乗るか乗らないかによる。
「会うのは厳しいですが、こうやって時々ですが連絡は出来ます。顔を知られたらお互いまずいと思いますよ?貴方のご主人とかにバレる可能性も高まりますし……」
『…それはそうですね』
「これは賭けです。夕月さんを助けたいと思うのであれば」
『賭けですか』
「自分がした選択が間違いだと思ったからこそ、私の連絡を承諾したのでしょう?」
『……そうですね』
何て言う男だ。はっきり決めかねれない。だからこそ圭人に目をつけられ、大事な人達を奪われたのだろうと、憐れんだ。