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迎えのベンツ

 人と電話するのなんて何年ぶりだろうか、それも『一般人』と。通常なら、こんな事しない。俺にとっては危ない賭けなのだから。正体隠しの『慶介』元の名前と存在を外部に漏らせる『情報』の一つとして本当は動かないのが『正解』なのだが、今回は二つの名前を使いながら、立ち回らないと色々な『化け狐』達を欺けないから、厄介なんだよ。俺の計画シナリオが何処まで通用するか微妙な所だ。これは組織として動くのではなくて、俺個人が動かないと成り立たない。だからこそ『雪兎』に非通知で『雄介』として電話をかける。親父から教えてもらった番号。そして幾人者『弁護士』と『政治家』を挟んでいるから、どうにか俺の尻尾は掴めないだろう。ここまで一人で動くなんぞ、体力と精神力と頭脳の消耗。面倒だが、綻びがないようにしなくては、綻びが一部分でもあれば、そこから情報が洩れ『破壊』の道へと堕ちてしまうからな。


 「……まぁ俺がそんな事させねぇけど」


 癒智には『コンビニ』とか色々買い物してくるから、待ってろと命令した。0:00までまだ数時間ある。だからこそ、この間にかけるのが妥当。


 「はぁ…面倒」


 ポリポリ頭を掻きながら、呟くとその呟きを消し去るように一台の『ベンツ』が俺の前に止まる。ウィーンと窓が開き、黒服の男の一人が俺に向かい話かける。


 『雄介様、お迎いにあがりました』

 「……はいはい、今行くよ」


 そう返しながら、ベンツに乗り込む『俺』この世界に入り込んだ俺の居場所は、もうしおりの傍でも、癒智の傍でもない。親父の支配する『暗黒の世界』が俺の今の居場所だからさ。表は貧乏な振りをして、裏ではスーツに着替えて『雄介』になりきる。冷酷な表情で、残虐に人を金にする為に。それが俺と親父の関係性の成り立つ理由でもあるのだから。過去の事件がないと、俺はここにいないだろうなぁ。心の奥がチクリとした気がした。自分にもまだ『人間』としての『心』が残っているのだな、そう自問自答しながら、心から赤い血の涙が溢れて、現実世界で俺の瞳の色と混じる。


 (ここからはゲームでしかない。雪兎がどんな奴か興味があるし…)


 久しぶりの電話だから、少し楽しんでいるのかもしれない。名前は『雄介』と名乗るが『慶介』として彼とは会話してみたいものだ。俺の若い頃に似ている気がするから、余計に興味がある。きっと雪兎にも選択肢がある、俺にもあったように。


 「さ、行こうか。親父の所へ連れてってくれ」

 「分かりました」

 「あはは」


 楽しみはもっと楽しまないと。快楽の一つとしてな。




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