過去の残像①
怒鳴り声から始まる。それは関係性の本当の崩壊と言えるものかもしれない。崩れかけていた『音色』は徐々に崩壊するのではなく、一つの物事で簡単に崩壊してしまうのが現実。それはある一つの『トラブル』から始まる。今までの『研究所』なら、そんなミスはしない。きちんとした設備だからこそ『逃亡者』を出してはいけないのだ。『夕月』の場合は遊離の仕業…わざとだから仕方ないのだが…。
圭人と遊離の傍に夕月を『保管』させるより、俺の味方の『雪兎』の傍にいさせた方がいいと判断して、全て仕組んだ。雪兎は俺が操っているのではなかった。全ては圭人の仕業。だから俺には関係がなかった。でも…圭人からの繋がりで雪兎と関わるようになって、昔の自分と重ねてしまった。だから『情報』を渡したんだ。俺直接ではなく、複数の人間を間に置いて、俺を信用させるように。圭人か俺『雄介』か、どちらにつくかを選択するように、選択肢を与えた。勿論雪兎は俺を選ぶ。選ぶしかないわな。オリジナルのゆちに恋焦がれた圭人。自分のものにしたくて言う事を聞かないから殺した。そして狂って、死んだゆちの亡骸を保存して、そこに姉を探しにきた夕月に目をつけた。顔が同じだからな、あの姉妹も。俺と同じ…。でも性格が違いすぎるし、圭人からしたらゆちを監視しつくしていたから、自分の理想の『ゆち』を作り始めた。金をばらまいて、人を雇って『夕月』の両手両足を解体して、半殺しの状態で放棄し、遊離が圭人の指示通りにあの研究所へと持って行った。過去に愛した『ゆち』と現在愛している『夕月』二人を人形のように扱い潰したのは紛れもない『圭人』なのだからな。そして雪兎の家族…圭人が夕月達と密接な関係の雪兎に目をつけ、人質にとられてる。嫌でも言う事を聞かないと、植物人間になっている母親を簡単に…。
(圭人…やはりあの研究所は昔から惨い《むごい》事ばかりをするな。人の命をなんだと…)
そう心の呟きが溢れながら、今自分のしているビジネスを考えて…「俺も同じか…」と少し落胆してしまう。生きている人間のパーツを競にかけて『金儲け』をするなんぞ、俺の方がタチが悪いのかもしれないな。圭人の厄介な一目ぼれなんぞに興味はない、ないが。ゆちより俺は夕月が欲しい。あの子の両手両足はマニア受けがよかった。あの子の場合は圭人から贈呈されたパーツだが、凄く美しく感じた。俺がそう思うんだから、客はもっとだ。気を狂わせ簡単に億に跳ね上がった。あんな綺麗なパーツ、なんて勿体ない事をしたんだと圭人を殴りたくなったが、もう過去の事。切り落とした体は元に戻せない。圭人が戻す気がないから、無理な話。
過去に飛ぶ。
俺を『慶介』から『啓介』に変え『雄介』と名前を渡してくれた『親父』あの人が俺を守っているから、こそ『雪兎』とある契約をする事が出来た。一度電話で話したんだ。親父から番号を聞いていたから、非通知でかけたんだよ。依頼人、そして彼に希望を与える『最後の砦』としてね。俺に出来る事は、それしかなかったから。もう元の夕月に戻す事は出来ない、だからこそ、癒智がいる。パーツを失った。壊れた『夕月』を俺の手で…。雪兎は戸惑いながらも、受け入れてくれたよ。それで取り戻せるのならってな。