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終わりのはじまり

 遠のく記憶と果てない感情の起伏。私の心は昔となんら変わりなく、現在を過ごし私を構成していった。昔話を思い出していると、記憶の扉をトントンとノックし現実へと呼び覚まそうとする人物の影が見える。そして昔と一緒で、変わらない声が私の耳に届いたのだ。


 『どーしたの?ぼーっとして』


 そのケイトの声で脳内がタイムスリップしていた事を知る。お前を見て昔話を思い出していたなんて言えるはずもなく、誤魔化してその場を後にした。あの時からどれ位の年月が経っているのだろうと感傷に浸りながら、変わってしまった自分を思い知り、自分の欲望をかき消し、何も考えてない事にすり替えてゆく。


 『あの子が欲しい‥』


 脳内の自分がそう囁きながら私を支配してゆく。手に入らないなら作ればいいだけだと。ゆちに似た人を創れば、自分の欲望は果たされるかもしれない。


 (ケイトならつかえる‥‥)

 

 また悪い癖だ。


 自分の欲望と理想の為なら、人をモノ扱いし、自分の計画へとゆっくり気付かれないように連れ込もうとしている自分が凄く醜く思える反面、なんて美しい思想なのだろうかと溜め息を吐くほど、自分自身に溺れている。家に着くと、机の上に起きっぱなしになっているあの時購入したゆちのCDを手に取り、ニヤリと笑う。少しずつ自分の何かが崩壊している気がした。中身を取り出し、曲を聞いていると、不思議と自分が母体の中にいるような錯覚を感じ、居心地の良さに酔いしれていた。そんな状態から数時間経ってケイトからのrim の音で現実に帰るのだ。音がするや否やスマホを取り出しrim を起動し、文面を読むと、もうすぐ家に着くからとメッセージが入っている。今から行くからとかなら分かるのだが、もう着くとはどういう事か。そんな突っ込みをしたくなる。あいつはいつもこんな調子だ。今回は事前に言われたから、予定を何も入れずにいるからいいものを。いつもいつも予定が入ってようがお構い無し。ある意味いい性格をしていると皮肉になってしまう自分がいる。


 『そろそろ着くよ、今日はトコトン飲みましょ』


 私の顔を見るなり、鼻歌混じりに呟いたように聞こえた。


 『貴方に夢の続きを‥‥』


 そう聞こえたのは気のせいだろうか、それとも……。まるで私の心の中を見透かしているようにも思えた。現在(いま)思えばケイトをつかえると思っていた自分が、逆に使われているきがして、妙に納得する。彼女も私と同じ人種だから、タイプは違えど理想や思想は似ているので、彼女の願いもゆちにあったのではないかと思えてしまう程だ、そんな空間の中をぶち壊すように声を発したのが、夕月だった。


 「はじめまして、今日から入りました夕月と言います」


 彼女の声が鼓膜を駆け巡り、私達を誘惑している。俯きながら考え方をしていた私はゆっくりと彼女の顔を見つめた。そこにいた存在に驚き、立ち上がってしまった。


 どこから見てもゆちにしか見えない。だが少しの違和感が現実へと戻し、ゆちとそっくりだがゆちとは違う、別人と言う現実に気付き落胆した。その感情と共に私は彼女とゆちを重ね、嬉しくなった。


 (この子しかいない)


 仕事も上手く起動に乗り始めたし、彼女のバーに行くといつも微笑んで、笑いかけてくれるから勘違いしてしまったのだ。彼女が自分を想ってくれていると‥。

彼女はそんな私の弱い心に入ってきて囁くのだ。自分に好意があると。酒の入った席で私の肩にもたれ掛かる彼女の姿がゆちと重なり、衝動を押さえきれず抱き締めた。寝ていた彼女の口元が緩む。

狸寝入りでもしているのだろうか。この瞬間を待っていたみたいに笑っているのが聞こえた。現実の彼女は口が緩んでいるだけで笑っていないのだが、私にはそう見えてしまったのだ。


 頭がクラクラする。此処は何処なのだろうか。


 (あぁ‥あれから彼女を抱き抱えホテルに来たんだ。)


 寝ていた彼女はふふっと微笑みながら圭人さんらしくない、なんて耳元で囁き、そんなにあたしが欲しかったの?なんて意地悪に質問して、精神的に支配しようと言葉を巧みに操る。そんな彼女はゆちと正反対。それに気付かずゆちの残り香と重ね、彼女がゆち、なんて錯覚に陥っていた。全ては夢の話‥‥。


 自分にゆちも、彼女も振り向いてくれる訳なんて現実などある訳にもなく、ただ残ったのは大量の札束と彼女から流れ出た大量の血痕だけだった。電動ノコギリで彼女の身体を解体してゆく。バリバリッと骨が砕ける。私は、ハハッと笑いながら君はゆちじゃないから、今から生まれ変わるんだ、そう叫び、笑い狂った。金なんかに狂ったお前が悪い、お前が汚いから、純粋にゆちになれるように私が彩ってあげよう。右手、左手、右足、左足、全て切り落としたそれは彼女なんて呼べる存在ではなくて、ただのラブドール。それでしかなかった。命は取りはしない。だって彼女はゆちと同じ顔をしているから、傷つける訳にはいかない。それ以外はゆちとは違う。だから要らないんだ。


 ベッドの上に置いているスマホを握り、電話を掛けた。そして今までの人生は終わりを告げ、新しい仕事に取り掛かる。


 「金ならいくらでも払うから、あるものをある所に捨てて欲しいんだ」


 そう一言言って、大量の札束を置き、そこを後にした。これで奴らがあそこに捨てて、私の上司が保管し、ゆちを創る。最高のシナリオ。


 「君の叫び声は最高のメロディーだったよ」


 私の笑い声だけが響いていた。





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