チルドレン(ミカサ)
ケイトから色々教えてもらったの。もう『ゆち』はこの研究所にはいないって。目を泳がしながらあたしに『嘘』をつくの。捨てられたのよって……。ゆちはあたし。あたしも幼子、癒智と同じで幼子。ケイトは何も知らないの。身体は子供でも、あたしも癒智もミオもオリジナルの記憶と混ぜられた夕月の存在に気付いている。癒智は失敗作で記憶を引き継げない。人間で言えば、一日の記憶しか覚えられないの。まるで病気みたいだけど、あたし達は作品の一つであるから『人間』なんて呼び名に期待していない。子供の振りをしているけれど、あたしもあたしで今の状況をきちんと見分けれているつもりなの。オリジナルの『ゆち』を殺したのは圭人…。
この研究所の裏の支配者と言われてた人。だけどある日から急に変わったの。優しい人だったのに、圭人の背後にチラつく影が見え始めて、こんな事になっちゃった。あたし達はゆちのコピーとして生まれてくるはずじゃなかったとケイト…ううん、もう皆『遊離』と呼んでいるから『遊離』と呼ぶね。もう圭人と遊離の呟く『ビジネス』とはかけ離れた現状になっているから。もう因果を止める事は出来ない。あたし達の力では…たかが知れているの。ミカサ…あたしの名前、本当の名前は知らない。あたしの骨の瓦礫に支配されている。複数の命を元に、肉体を元に、ミカサが創られたのだから。創造の神なんていない、全ては人間の醜い欲望から始まる。誰も『神様』なんかになれないのに、どうして真似事をするの?そのせいで何人の人を潰して、あたし達『チルドレン』を作ったの?悲しみに溢れる心に逆らいながら、唇を噛みしめる。
(くやしい…あたしはあたしなのに…)
遊離は何であたしの姉妹の『癒智』を捨てたの?廃棄したの?そんな簡単に処分できるの?あたし達の命は『モノ』なの?
『骨の瓦礫』
あたしはその名前を聞く度に耳を塞ぎながら、夢幻へと逃げるの。そこにはあたしになる前の身体の持ち主の記憶も隠れている。実はあたしはミカサじゃないのかもしれない。全てのパーツを複数人から奪った人造人間、そしてコピー品だからこそ言えるの。
以前のあたしは瞳がシリコンで出来ていて、瞳を失ってた。長い髪を揺らせながら、時を待ちながら、裸のまま実験台とされていたの。その記憶…妄想かもしれないけれど、身体に痛みを伴う記憶だからリアルしか感じれない。だからあたしの身体中には訳の分からない『紋章』がある。何度身体をつなげても、永遠に浮き出てくるらしい。遊離も驚きながら、それでも怪訝な瞳をせずにあたしを『ミカサ』として受け入れてくれた。本当は二人は悪くないと思う…思いたい。だけど、色々な状況と情報を重ねてもあたし達『チルドレン』は味方にはなれない状況。
二人はあたしの姉妹の『癒智』を切り捨てたから。ミオが絶対に許さないと思う。