俺の欲しいもの
準備は整った。全ての骨の瓦礫は今始動するんだ。私、僕、いや、俺の手中の中にそれらはある。
「圭人の思い通りにはしねぇよ。圭人を操っているのは俺だからな…」
洗面所で顔を洗い終わった俺は、鏡に映る自分の姿を見ながら、落胆する。もうあれから15年経った俺の顔は、幼さの欠片を失い、どこからどう見ても『双子の兄』そのものの顔に成長している。
(俺は雄介、もう『啓介』なんかじゃない)
そう分かり切った事を鏡に映る自分に問いかけてみるけど、答えは当たり前に返ってくる事はない。顔が似てても、雄介と過去の俺『啓介』は別人だ。兄弟なのには変わりないのだが…成り切れる訳などない。出来ないと思い、考えるのが『普通』かもしれない。生憎俺は『普通』ではないからさ。論外な訳さ、自分で自分を分析してもそう感じるし、何て言ったって、一番は周りがそう呟いていたから、それが全ての結論なんだよな。
俺には俺の計画。人体実験する為に犠牲にした『ゆち』と夕月。ゆちを手に入れるのは簡単だった。圭人が動いていたから、余計に、全ての計画が遂行される。全ては俺の作った本当のシナリオ骨の瓦礫。ゆちと圭人も同じ名前で呼んでいるが、本当の『骨の瓦礫』を知るものは俺のみ。生きている人間の中ではな?骨の瓦礫はいわば両手両足を集めるコレクターによって開催される裏の売買所。せりが始まる。綺麗な腕、足、手、指。お客様達が気に行った部分を生きている人間から奪う。勿論新鮮さを一番に考えているからこそ『生きた状態で解体する』事を条件として、俺の下が動く訳。その為の研究所…いわば俺が株主でもあり、会長でもある。あはは、圭人は表の中心人物だ。そして俺のダミー。俺の命を狙われる度に、圭人に被害が行く手はずになっている。だって啓介は15年前に死に、死亡届も出されているのだから『雄介』として生きる方法しかないんだ。俺の兄は、行方不明になっている。そして死体を隠したのは…もう一つのシナリオ『壊命』が絡んでいる。
俺達兄弟が深く踏み込んでしまった『事件』にな。色々な事を脳内に映像化しながら保存していく。記憶の奥へと封じるように、なかった事のように、そっと奥の扉に仕舞いながら、俺は『雄介』へと覚醒していく。いつもと違う空気感、そして空間が出来上がりながらも誰にも止める事など出来ないのだろう。そう思ってたはずなのに、簡単に俺の心の鎧を崩壊させ、土へと戻していく。
『啓ちゃん…どうしたん?顔色悪いで?』
後ろから俺に抱き着きながら、震わす声を出しているのは『癒智』の存在。肌から温もりが伝わってくるたびに思う事がある。よく出来た『人形』だと。俺のシナリオ…骨の瓦礫。その為だけに作られた『人工人間』と言っていいだろう。人間扱いするなら…未熟と言った所。人形扱いするのなら…壊れ物、研究所から捨てられた『癒智』は失敗作だ。遺伝子操作で『ゆち』と『夕月』の幼少時代を混ぜ、作られた幼子。
永遠と年齢を重ねる事のない『失敗作』
ただの化け物。
簡単に言えば『不老不死』と同じ存在だから…公に知られたら、ビジネスにも影響がくるし、俺はまた『別人』として生きる名前を取得しなければいけないのが現状。そんな事を考えている事なんて、つゆ知らず、純粋に震えている。今はこの失敗作を三人目のチルドレンを本物にする事が一番だと考えているからこそ、この子を手中に収めている。
(後は…夕月)
手を回されしがみつく『癒智』の気持ちに振り向く事もせず、冷酷な瞳で計画をたてていた。
全ては自分の欲望の為に――
≪やめて…慶介…≫
俺を止めようと懐かしい声が耳を通って心に浸透していく。しかし俺はあの時とは違う。この声が幻想なのも理解しているからこそ、より冷たさを纏うんだ。
(俺は…慶介じゃない…啓介だ。今の名前は違うがな。その名で二度と呼ぶな!)
俺の叫びは届かず夜空の向こうで溶けて、暗闇になった。