ハンデ
首から滴れ堕ちる血潮があたしを壊していく。そうそれは殺意。貴方さえいなければ、あたしはどれだけの日常を手に入れられただろう。空間の歪みは永遠と静止状態だ、まるで今映画を見ているように美しいスクリーンの中の映像を無理矢理一時停止しているような感覚を感じてしまう。想像力の豊かなあたしは、少しの動作と情報を取り入れるだけで、すぐに映像化してしまう感覚者なのだ。特殊なタイプの技術なのかもしれないが、そうやって貴方の発する声と言う『音』を感じる事により、失ったものを補う事は可能と言う事だ。これはあくまで過去の話であり、現在の私は視界を捉える力はある。しかし一度失ってしまったものを簡単に取り戻せる訳ないのが人間と言う存在なのだから。ハンデを持ちながら物語を描き続ける。グランと上下逆さまに見える時もあれば、日常生活で光を失う事もある。その時は手の感覚などで演技者になるのだ。一瞬だけなのだから、その時だけ、周りに合わせた行動を読み取りながら、上手く立ち回ればよいだけの事。
色々な策の中で、あたし…夕月は生きている。これが現状なのかもしれない。ぼやける目線は微かな光により創造され、少し力が緩んでいく。右目が疼きながら、少し視力が低下するが左目がある。そうやってパーツを使い分ける事により、自分を守れると言う訳なの。ただ両手両足を切断された現在のあたしを助ける術はないと思う。それでもゆちと言う女が呟いた、あの言葉が気になり、少しの希望が見え隠れしている。
あたしには両手両足を渡さないと言う事はあの人の両手両足をあたしの新しいパーツとして再利用出来る可能性があると言う事だ。彼女の存在が何者であるか理解出来ないあたしは、過去のあたし。雪兎から少しの情報を貰って、夢に漂う夕月…いやゆちではないのだから。本物だと呟くゆちは、腹違いの姉の記憶と闇に埋もれた『ゆち』なのかもしれない。人を操る。自分の理想となる形を作り、計画を思い通りに動かしていく事は、簡単ではない。