臆病者
複数の魂はこれらの計画を遂行させるために存在するのだ
私は私のシナリオを軸にし、全ての創造主となろうか
壊命とは別のシナリオ
そうこれは骨の瓦礫なのだから。
二つのシナリオが入り混じりながら
全ての物語は過去へと渡る
「いやああああああああ」
どうしてどうして、またここに戻るの?あたしは自由と言う羽を奪われた堕天使。ポタポタと流れる血は、余計濃くなり、床を濡らす水浸しのように。
『夕月、おいで。僕の傍に』
まだ存在している時のあたしのパーツを引きちぎるかのように、右手を引っ張り、自分の体に引き寄せながら、貴方の胸に縛られる。
『君が言う事を聞かないからだよ?』
「やああああああああああああ」
離して、離して、お願いだから。その血に塗れた、手であたしを触らないで、触れないで。カタカタと震える体はあたしの心の叫びのように貴方の心を射抜く。そうやって傷つけ合いながらも、もがいている心と体は、常に貴方に監視し続けられている。もうあたしの瞳は光を失い、その代わりに、真っ赤な絵具に染まる。瞳を支配しているのは赤い液体。少しずつ見開いている瞼を刺激し、流れ込んで、ツンと刺激を与える。痛みなどよりも、その状況に耐えれなくなったあたしは、壊れたもの。場所で例えるならば『廃墟』と言った所だろうか。複数の人達が楽しく過ごしていた記憶の欠片の終結。そして終焉。その総集があたしの瓦礫。
『叫べる元気があるのなら、まだ大丈夫だね。次は腕だ。芸術品を創ってあげるよ。夕月の身体でね』
そうやって笑い声と共に冷酷な声が響き渡る。視力を失うと、他の部分が異常発達すると聞いたけど、この感覚なのだろうか。目の見えない状態で、耳から聞こえる声や音は、普段聞いていた音よりも、リアルで鮮明。そして倍以上の恐怖しか感じれない。
「何をするつもり?」
『見えてないからいいだろう?ご褒美だよ』
僕からの愛の旋律をプレゼントしよう。そう貴方の呟きが聞こえたと思ったら、後ろから抱き抱えるように体制を変え、後ろからあたしの顎をクイッと持ち上げる。耳元から聞こえてくるのは貴方の吐息と微笑み声のみ。それだけだと思っていた。いや、思おうとした。貴方の性格上、それで終わる訳がないと感じていたから、何をするのか予測が出来ずに、ただ硬直する身体しか存在しない。心は身体から抜け出し、幻想と言う名の妄想へと逃げ込んでいく。
『綺麗だよ、赤い絵の具が美しい。もっともっと絵具が必要だね…赤い漆黒の君の血液が…』
瞳から見えなくても、声だけで表情が分かるような気がする。高揚感というのだろうか。抑えきれない欲望をあたしに叩きつけ、言葉の暴力を振るう。体への暴力は、もう飽きたのか何もしてこない。そう安心していた時だった。あたしの首に冷たい刃が少し刺さる。弱い痛みだけど、ツツッとあたしの首から血液があふれ出しているのが体の感覚で分かる。
『美味しそう、いただきます』
後ろから抱きしめている貴方はあたしの肩からぬうと気配を出して、流れ出る血潮を吸い続ける。まるで飲み干すかのように。
「何…して」
『君の味を楽しんでいるだけさ』
「……」
『抵抗しないんだね、いい子だ。私の夕月』
「うう…」
首を這い続ける舌の感触を感じる度に、自分が狂っていくのが分かる。この空間から逃げ出そうとすれば、今以上の痛みが与えられる。逃げれなくなる。だからこそ、この空間を耐え続けるしか方法はないの。例え耐えたとしても、どうなるのか分からないけれど。あたしには、もう何が起こるのか分からない。過去のあたしは震えてばかりで、泣く事さえも出来ない『臆病者』だった。