シナリオ
チャイムの音を鳴らすのは過去のあたし…そう夕月として生きている時の自分。今はゆちと夕月が混ざり合って、記憶が滅茶苦茶。もう壊れてる。でもその崩壊も、心地よいと思えてしまう自分がいて。急に楽しくなるの。それは過去に戻るあたしの姿かもしれないね。ドアを開けようとするけれど、手が震えて開ける事が出来ない。心の不安は的中する、どうせ今日も…。続きの言葉を失う自分は、もう本当の姿には戻れないのかもしれない。
(開けたくない…開けてしまったらきっと…)
過去のあたしと今のあたしの心の声が重なる。
((戻れない、二度と。あたしには))
心の涙は枯れ果てながら、あたしはゆちになっていく。それも本来のゆちとは違う、闇に埋もれたゆちに…。
「ふふふふ…早く開けてよ、鍵を。あたしを呼んだ癖にね」
ドアの向こうから、貴方の声が聞こえる。
『呼んだけど、ゆち君を呼んだ訳ではない。覚醒したお前などには興味などない』
「あらあ?あたしじゃ足りないの?」
『お前では私の快楽を埋める事は出来ない。同類のお前にはな』
「同類って誰となの?」
『私と同じ匂いがするお前は同類。殺人鬼の素質があるな』
「あはは。それは誉め言葉ね。嬉しいわ」
『褒めた訳じゃないから。早く夕月を出せよ。お前は消えろ』
「そんな事言ってもいいの?あの子を殺せるのはあたしなんだけど」
『殺す?お前に出来ないだろう。全て浸食しないと、コントロールなど出来ない癖に』
「へぇ…そんな事言う訳?それでいいの…夕月を取り込めなくても、あたしの思い通りに出来る方法があるの」
『それはどんな方法だい?』
「ねぇ、味方につけるように同じ言葉を使って内面に入り込もうとしないでくれないかしら?気分が悪いわね。貴方が一番知っているでしょう…ふふ」
『圭人の作ったシナリオが関係あるのかな。その言い回しだと、君は圭人を愛しているから』
「ふふふ…それはどうかしらね?貴方の想像に任せるとしましょうか。その方が刺激があって楽しいでしょう?」
『ゆち…君は闇に堕ちた人間。夕月はまだあちら側の人間だ。そして逃げ場がある。夕月にはね』
「……逃げ場ねぇ。そんな事させる訳ないでしょう?あの体もあたしのものにするのだから」
『それは夕月と癒智を操れたらと言った過程の話だろう?君にその技術が出来るとも思えないのだが』
「あはは…。それはあたしを馬鹿にしているのかしら」
『取り方によればそうなるかもしれないな。君に余程の頭脳がないと無理な話。無駄だな、時間の』
「無駄かどうかやってみないと分からないでしょう。圭人もその方が喜ぶ。あたしが全ての黒幕になるのよ。いつか圭人も取り込む為にね…ふふ」
『難しいな、圭人のバックには遊離とあのチルドレン達がいるだろう。皆強者だ。骨が折れるだろうな』
「骨を折るじゃないのよ、砕くの心と共に骨のずいまで…それがあたしの計画する『骨の瓦礫』のシナリオ」
『楽しみにしとこうか、その破壊の音を』
「永遠と続く快楽の音色よ」
『それが君に演奏出来るのならね』
「それを可能にするのが闇のゆち……あたしだから」
ふふふ。
黒く混ざり合うのは一体誰の心なのだろうか。全ての崩壊はもう止まらない。加速する一方だと言っていいだろう。