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傷跡

 複数の計画と思惑に揺られながら、日常へと移ろう。私の隣には圭人の姿がある。疲れている彼は、昔と同じ純粋な寝顔で何も変わりなく、存在している。震える手で髪を触ると、サラサラし、溶けていく。昨日のように、体と体が交わるように、溶けていく。そう思い込む事しか、彼の傍にいれない私は弱虫なのかもしれない。寝ている時だけ昔の関係でいたい。そう私は願い続ける。夜空の中で流れる星屑のように、何度も何度も、同じ願いを込めるの。それしか出来ない…ゆち…いいえ夕月から心を離そうとしても、全ては無に返るだけ。いらなくなった私はすぐ捨てられる。心で引き留めれないなら、体だけでも繋ぎとめておきたい。そんな方法しか分からないのよ。


 両手両足…ゆちと似ていない部分を失った夕月は言わば『人間ダルマ』


 今は心地よい夢を見ている。でもね、あの子はもうこの研究所にはいないのよ。圭人から切り離す為に、雪兎を雇ったの。多額の金額を積んでね。ばれないようにしていたのに、全て圭人にはオミトオシと言う訳。幼馴染だからこそ、私の行動を把握していまう圭人から逃げる事は不可能。私は心の痛みを隠すように、彼の頭を撫でていた手で自分の顔を包み込む。悲しくはない、悲しくないはずなのに。


 『どうして…?』


 両手で隠すのは毀れる涙を受け止める為なのかもしれない。もう、自分が何をしたいのか、何を望んでいるのか分からない。ただ一つ言える事は、彼…圭人を手放したくないと言う真実だけ。


 『愛してるだなんて…嘘つき』


 深い眠りについている圭人には届かない叫び声。ポロポロ零れ落ちる雫は、私の心と共に壊れていく。


 『叶わない』


 私の願いは叶わない。ゆちと夕月の存在にも敵わない。どうすれば振り向いてくれるのか、昔のように大切にしてくれるの?昔みたいに言ってよ、心を込めて愛してるって。貴方の話を聞いて、ゆちの事を知った時は驚いた。圭人には私しかいないと思っていたから。心がこんな簡単に離れるなんて、想像もしてなかったのよ。眠っている圭人を見つめている時が本当の幸せで、孤独で、悲しくて、心が締め付けられる。私は貴方以外、愛せないのだから。それを一番理解しているからこそ、私にこのプロジェクトを勧めたのかもしれない。今考えれば、舞い上がっていた自分が恥ずかしい。


 『このまま眠ってて…お願いだから』


 ……私を見てよ。あの子達じゃなく、傍にいる、貴方を支えている私に気付いているはずなのに、知らんぷり。それが圭人のいい所でもあったし、他の女の方へ行かないと安心していたけど。こんなあっさりと関係が壊れるなんてね。圭人は私を利用しているのは明白。そして私も圭人の温もりを求めて、孤独を埋める為に利用しているのかもしれない。


 ポタポタ毀れる音は残酷な音。右手が疼き、消えていたはずのリストカットの跡が浮き彫りになる。まるで夕月の過去とリンクしているみたいに。




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