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戻らないストーリー

 目覚めるとそこは暗闇に包まれていた。あたしを抱きしめていた雪兎はもういない。今までの感じていた現実がまるで夢のように幻となって消えていったみたいに。何が夢で何が現実か分からないあたしは、もう狂ってしまったのかもしれない。誰も助けてくれない苦しみを感じる事も出来ず、慣れてしまう。他人の目から見るとよくない状況、そしてもう元には戻れないのかもしれない。変な夢を長い間見ていた気がする。内容を覚えていたはずなのに、記憶にロックがかかって、靄がかかっている。まるで思い出してはいけないと警告されているみたいで、少し恐怖を感じてしまう。こんなのあたしらしくないのにね。


 (誰かいないの…?)


 捨てられた子猫のように、呟こうとするけど、声が出ない。


 (どうして?)


 あたしは雪兎と会話をしていたはずなのに、口をパクパクと動かす事も出来ない。


 (なんで?)


 カタカタと震えだす心の音。体を震わせない代わりに心が叫び声をあげる。たすけてって……。


 『もう元には戻れないよ?』


 不安に浸食されていく心にトドメを刺すみたいに、低い声で誰かが笑いながら喋っている。


 (誰………?)

 『…夕月…君は所詮ゆちのコピーでしかない。もうゆちの妹なんかじゃない。これからはゆちとして生きていく選択しかないのだよ?もう元には戻らない、君の心も体もね?』


 冷静に話しているように聞こえるけど、自分の快楽の為に呟いているような気がする。心の中に喜びを抑え込んで、あたしに言葉を聞かせているみたい。


 耳障りな子守歌。

 破壊へと誘う悪の言葉

 あたしを壊していく低い声。

 もうストーリーは戻せない。


 (あたしはゆちなんかじゃない、妹って何よ?あたしに姉はいない)


 心の叫びを声の主にぶつけてみるけど、破壊されていく。


 『君はゆちと話をしたのだろう?思い出したくないものはシャットダウンかな?それが君の心の守り方か…。冷静ぶっても脆いのだな』


 フウと溜息を吐く音が聞こえる。鼻にツンとくる匂いは煙草の匂い。それを感じとれると言う事は、聴覚と嗅覚は機能していると言う事。この煙草の匂い、どこかで嗅いだ事のある匂い。思い出そうとしてみるけど、頭痛がして、意識が揺らいでいく。思い出してはいけないよ、と雪兎の声が聞こえた気がした。誰もいないはずの暗闇に、空間に二人の声が混ざり合いながら、溶けて空気の一部になっていく。あたしの身体に入り込み、一体化しようと企んでいる。まるで策略家だ。


 (あたしは……)


 この空間を打ち破るように、心で呟いてみるけど、続きの言葉が出てこない。何も、出てこない。代わりに心の涙が溢れた。


 

 


 

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