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幻想夢

 愛している

 愛している

 悲しい響き

 砕かれた体は

 壊れた人形

 私達はもう元には戻らない

 戻れない

 


 月夜に怪しく揺られるのはあたしの心なのかもしれないね。ゆちに浸食されてしまったあたしは、もう一つの『夢』を見ている。それは癒智の『夢』あたしのもう一つの体。まがい物のコピー品なのかもしれないけれど、あたしの『モノ』なのには変わりない。あたしは雪兎の腕の中で眠りながら壊れていく。両手両足を『失っていない』ただの幻想夢を……。闇に埋もれながら、囁く声がリンクする。雪兎の声は徐々に移り変わり啓介の声に変ってゆく。あたしが『うち』になる瞬間だと言っても過言ではない。


 (どれが本当の『ユチ』なの?)


 改造された脳と体、そして麻痺してしまった心は、もう元には戻らない。戻したくても戻せない。あたしの頬に雫が流れ落ち、皮膚に吸収されていく。まるで雪兎の悲しみのように、止まらない雫の数々。誰かが泣いている。意識の途切れそうなゆちの体、夕月の心。もう何が現実で、何が夢なのかあたし達には理解不能な現状になっている。それでも、この涙の温もりは真実だと思うのは、あたしが甘いからだろうか?答えを考えても、何も出てこない。出てくるのは『癒智』と言うもう一人のあたしの夢物語。夢なはずなのに、現実と同じ感覚があるの。気のせいだと思うけど、凄く精神の疲れと、悲しくなるの。まるでその場で存在しているような感情が入り込んできて、止まらない。


 (きっと気のせい)


 自分自身に言い聞かせながら、意識が途切れていく。まるで『糸』がプツッンと切れてしまうように、弾けていく心と脳みそ。もう誰にも止めれない……。


 《悲しくなんてないよ、あたし達は三人とも『ユチ』だから》


 夕月に乱れる心 

 悲しみに揺れる細胞


 「ううあ…」

 『やっと起きたか、癒智。疲れていたんだな、よく眠れたか?』


 眩い光に目を開く事が出来ない。左手で左目を擦りながら、ムクリと体を起こす。夢見心地の中でいるうちは、まだボンヤリしてて、心地いい。両耳に聞こえるのは、優しい声と落ち着く風音。うちの大好きな音で、なんだか懐かしい声のような気がする。このお兄さん…啓ちゃんとは昨日出会ったばかりで、家までついてきてしまった。うちに家族がいれば、こんな事してないと思うけど…仕方ないと言い聞かせる事しか出来ない。ボンヤリと色んな事を考えると憂鬱になってしまう自分がいる。何に憂鬱になっているのか、何に怯えているのか、分からない。記憶に『ロック』がかかっていて、身動きが取れない。誰かに頭のノートの文字を消しゴムで消されているみたいに、記憶が抜け落ちていく。


 (何これ……どーなってんや)


 寝ている時間を取っているはずなのに、身体の疲れが一切取れていない。まるでずっと『起きていた』ような気だるさが、身体を支配している。


 (思い出さなきゃいけないのに…えと、うちは……誰?)


 このお兄さんは……あれ?誰だっけ?寝て忘れる『癒智』の姿がそこにある。それがどんな理由でこうなったのか、考える事も出来ず。『分からない』の中で漂いながら。あたし達『ユチ』はリンクし、共鳴する。


 「ああああああああああああああ」


 頭のサイレンが煩い。キーンと脳に痺れも来て、まるで『麻酔』を打たれているみたい。これは輪唱。啓ちゃんの姿も見えなくなっていく。うちの視界が真っ黒になって、暗闇に堕ちていく。


 『おい!どうした?』


 耳からははっきり聞こえる声。でもパニックになってしまううちは、どんどん加速し、壊れていく。雪兎の腕に包まれながら眠る、二人の『ゆち』と同じように。啓ちゃんがうちに声をかけ、近づいてくる。ふわりと腕が舞い、うちの体を包み込む。温もりがリンクするあたし達は、瞳から一筋の涙を零しながら、夢の続きを見る。


 残酷な夢の続きを……ね?




 

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