『ゆち』と『癒智』
君に教えてもらえた思いを
温めながら文字にする
そして眠る、月夜の中で
輝きを放つ
魂の姿
『人形』は『人形』でしかない。存在出来ないんだ。俺達が見ているものは『ゆち』の物語であり、もう一人の『癒智』のストーリーでもある。この二人は、どんな存在で、どんな繋がりがあるのかなんて、考えもしなかった。その事実に気づくのはね…まだ先の話。今はこの漂う感情の波間に揺られながら、君の声に耳を傾けるしか『選択肢』しかないんだ。これは僕『啓介』そして『雄介』としての目線から始まり、終わる音の欠片。俺達は、二つの人生を見ながら、複数の世界の中で生きてきた異端児。そうやって光と闇を操りながら、生き残った『残像』でもあるかもな。
夕闇は心の中で映像になり再生される。全ては始まりで、終わりでもある。この果てを……。壊れかけの人形を手に入れた俺は、1Kのアパートに向かう。こんな姿の癒智を連れて、コンビニ寄ったりしたら、俺が通報されるからこそこそと闇に混じるよう、まるで絵具のように溶けて、一つの色に変色していくように隠れながら、家路を辿る。これは『かくれんぼ』なのかもしれないな、とユーモアのある発想をしながら、癒智を見つめる。幼子に見える癒智は、本当に幼子なのかと疑問に思うくらい、瞳の奥に感情の安定が見える。この瞳、目つきをするのは『人生』を悟った人間が出来る瞳だと思うからね。だからこそ『しおり』と重ねてしまうのかもしれない。俺の死を…いや『啓介』の死を受け止められているのか不安に思う事はあるんだ。彼女は強く見えて脆いから、凄く、凄く、氷のように簡単に砕けて、無くなる。そして水蒸気のように俺の元から去っていく。危うさと美しさを兼ねそろえた『人間』と言っても過言ではない。とても『危険』な存在。そんな事を考えていると、恥ずかしそうに見つめ返してくる癒智の瞳が僕を吸い尽くす。快楽と残虐さとそして魅了させる『誘惑』
『啓ちゃん……ここ家やろ?もう降ろしてくれんやろか。うち恥ずかしい』
「……なんで?」
『なんでって…そんな抱きしめられるように、お姫様抱っこされると普通はずいやん?』
「ふーん、そんなに恥ずかしいんだね」
ついつい照れる癒智を見つめていると可愛いと思いながら、虐めてやりたくなる。そりゃそうだろう?俺が飼っているペットだから、余計にね。グイッと癒智の顔に、唇を近づかせてみると、お互いの息が触れ合う。わざと呟くんだ「どうした?顔が赤いぞ?」なんてな。俺の意地悪さに対応出来ない幼子は、モジモジしながら、俺の腕に顔を埋める。表情の『かくれんぼ』みたいだな。そこも可愛くて、ますます加速していく。まるで試すように…。
『何回も言うてるやんか…やめてくれん?』
「…くっ、そういう反応されるとやめたくなくなるんだよな、わりぃけど」
『啓ちゃん…もしかしてS?』
「あはは…癒智はガキだから、そういう事を言ったらダメだろが。まだ早い」
小馬鹿にしているように微笑むと俺は悪に移り変わる。それは昔と同じ俺のもう一つの顔。俺達の起こした『事件』の全貌でもあるんだな、これが。そういう表情はしおりには見せたりしない。嫌われたくないから。でも癒智には見せれる。しおりではないから、別に見せてもいい案件。全てはプラトニック。深い深い快楽の始まり。
「ま、いいや。寒いだろ?中に入ろうか」
ガキなんかにゃ興味ないね。俺が興味あるのは、ガキの体じゃねーからな。ただ一つ言える事は癒智を自分色に染めて、滅茶苦茶にして廃人にさせたい。そう『願う』だけさ。
「入ろう、癒智」
俺の闇にもおいで。
一度でも入ったら『共犯者』
獲物は逃がさない主義だから。
(逃がしはしないよ?)
くくく…、と心の笑みが表に出そうなのを堪えながら、家に入る。俺の瞳はきっと『冷酷』で『死んでいる』のかもしれないね。暗闇から逃げるように、快楽の扉を開ける。……ほら、もう逃げれない。
蟻地獄。