夢の続き……
夢の中は果てしなく、私はいつまでも微睡んでいる。ゆち姉さんの記憶を共有したあの時からこんな日が来るんじゃないかって思ってた。私に危険が及ばないように誘導して夢の中で沢山の嘘を吐いて、私の体を自分のものにしたのね。
私を守る為に――
沢山の人達が姉さんを狙っていた。美しくて、いつでも笑顔の絶えない綺麗な心を持っていた姉さんを。私はいつまでたっても、背中を追いかけるばかりで、姉さんに勝つ事が出来なかった。最後の最後まで守られて、生きるなんて、そんなの望んでいなかったのに……
時間を巻き戻す事は出来なかった。これじゃ過去と同じ。私は助ける事が出来ない運命にあるんだと落胆しながら、夢の中で姉さんの最後の言葉を聞いたの。
「あたしは思い出してしまった……ある研究員が手を加えたせいで」
「……それは誰なの?何を思い出したの?」
「夕月、貴女は知らなくていい――知れば傷つく人がいるから」
「それじゃ納得出来ないよ」
「あたしはある存在に目をつけられた、そしてある人間を使っておびき寄せたのよ」
「……意味分からない」
「それでいい。何も知らなくていい事だから、貴女には関係のない事なのよ」
突き放しては引き寄せる姉さんの言葉に翻弄されながらも、自分の意見を持たないと泣き崩れてしまいそうで怖かった。一度ならず二度までも、姉さんを失うなんて考えられなかったの。
「時間がないの、あたしは啓介の傍にいる事は出来ない。あたしのせいで雪兎も死んでしまう、だからもうこれ以上、関わらない方が幸せなのよ」
その言葉がどんなに冷酷で残酷か理解しつつも、手放す事が見送る事が出来ないあたしは臆病者。だけど、どんな人でも大切な人を失う時はこんな気持ちだと思うの。だから止めれるだけ止めたい、そう思うのは我儘なのかな?
「啓介に伝言があるの」
『……』
「あの人は生きている、そして貴方を探してたと伝えておいて」
『いやだ』
「我儘言わないの、いい子だから」
『待って、まだ……行かないで』
私の手から姉さんは遠ざかっていく。止める術を知らない私は泣きじゃくる事しか出来ない。何も知らずに生きていく事が出来たら、きっと違った未来が待ってたはずなのに……。
遠くで音がする。男の人のうめき声が、その先へと消えていく姉さんがいる。聞きたくない音がある。ドクドクと流れる血の音と匂い、姉さんは行っては行けない場所へと行こうとしている。
『いやだよ、お願いだから』
私達を引き離すのには充分な理由だったのに、どうしても受け入れられない自分がいたの。私の背から啓介の声がする。まるで止めるかのように、帰ってこいと行っているように。
最後の音は姉さんの笑い声で途絶えた――
行かないで
一人にしないで
大切なの
もう何も誰も失いたくないから
あれから何も聞こえない、夢さえも見ない。私は魂が抜けた屍になってしまった。そうなる前に啓介に伝言を伝える事が出来たのが唯一の救い。
私は誰、この体は何、ここは何処。
『疲れているだろう――眠りなさい』
私の心にはもう二度と届かない声。目を見開いたままの私の瞼をそっと閉じて新しい夢を見させてくれる。永遠に目覚める事のない夢を――
夢の中で姉さんと出会える事を信じて。