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骨の瓦礫  作者: 綾 瑜庵
155/156

お前は怖くないのか私が……


 『どこにいるんだ、ゆち』


 隠れてないで出ておいで、私がお前の体ごと魂も喰らってやろう。別の体で何度も蘇生する事に気付けなかったお前が浅はか。輪廻転生と人間どもの言葉を借りるとそれに当てはまるのがゆちの存在だ。


 『もうミカサは私のものだ、次はお前だよ』


 探すのは得意中の得意だ。匂いを辿っていけばいい。どうせゆちの事だ。自分の妹の夕月が可愛くて肉体を交換したのだろう。あの世で彷徨っている者達はゆちの前世の家族にあたる人物。血の繋がりがあるものもいれば、婚約者だった雪兎の弟でもある。


 『あんな奴らに渡してなるものか』


 私の内臓からあふれ出るのは人に闇を与えて自ら破滅を望むように組み込まれたものを持っている。いわゆる感染に近い状態になるものを。


 歩くだけで生きている人間に寄生し、命を奪っていく。赤黒く染まる人間(それ)はもう人とは呼べない形へと変貌している。うめき声をあげるもの、私の奇形を見て、逃げまどいながら倒れていく者がドミノ倒しのように倒れていく……。


 くんくんと匂いを辿っていくと、隠し部屋にたどり着いた。生きた人間とゆちに似た匂いがする。やっと会える、私が愛してやまないゆちが……やっと。


 この時、気付くべきだった。私も創られた存在だと。あの方の思考に侵されている事に気付く事なく、右手の職種でドアを破る。ドアと行っても、鉄で出来たもので、中から二重のカギがされている。外から開けれない構造となっている。


 しかし今の私なら簡単に突破する事が出来るのだ。この化け物になった体でなら、全てを破壊出来る。それが愉快で愉快で溜まらない。首がとれかけている事にも気付かず、中へと入っていく。


 『……』

 「そこにいるのだろう?」

 『……』

 「この匂いは雪兎と夕月の体を手にしたゆちだな」

 『……』

 「私だよ、是露(ゼロ)だ。お前を喰らいに来たのだよ』

 『……』

 「迎えに来てやったのだから有難く思え」


 反応なんてなくてもいい、奥の部屋に隠れているのは分かるのだから、私はゆっくりと右足を引きずりながら、近づいていく。


 『みーつけた』


 そこには動く事の出来ない夕月の体があった。中身はゆちだろう。姉妹で記憶を共有しているはずだから、自分の事だと指している事にも気付いているはずだ。


 私は長い舌でペロリとゆちの体を舐める。両手両足を失ったその姿は以前よりも美しく怪しく輝いていた。断面の味も知りたい衝動に駆られ、誘惑に負けてしまう自分がいた。


 乾いた血は肉を覆い、守るように防御している。こびりついた血を舐めとっていくと、長い期間そのままにしてしまったのか紫色になっている。腐食が進んでいるのかもしれない。そう思うと、ゆちの瞼を舌で刺激し、無理矢理開こうとした、その時――


 『やめろ』


 後ろからスコップを持った雪兎がいるではないか。ゆちを守ろうとして私に立ち向かう姿を見ていると、怯えて逃げまどう者達と違う。


 「お前は死が怖くないのか?」

 『ゆちを離せ』

 「お前はあれを愛しているのか?」

 『化け物め』

 「お前も私の一部になりたいのか」


 会話は成り立たず、勢いよくスコップを振り上げる雪兎の姿を最後に見た。私の首を目掛けて攻撃をしてきたので、取れかけていた首は簡単に地面へと転がり落ちた。


 『やったか』


 私の頭はその場に転がり、ゆちの胴体へと向かう。両目は潰れ、何も見えないが匂いを辿って転がれば何の不便もない。雪兎が思い切り切り落としてくれたおかげだ。反動でより早く彼女の元へと行けたから。


 胴体は雪兎の足を食い止める事が出来るからこうしてくれた事で私は喰らう事が出来る。


 「来たのね」

 「……起きたか」

 「貴女の叫び声で目が覚めた」

 「何よりだ」

 「あたしを食べに来たの?」

 「私は……お前が欲しい。身も心も。何処の馬の骨とも分からない奴などには渡せん」

 「そう」


 青い瞳で私を見るゆちの姿を見て、確信をした。私達の願いが届いたのだろうか。闇に浮かびながら私達を見ていたあの頃(・・・)のゆちの瞳の色だったのだ。


 『ゆち……逃げろ』


 雪兎はスコップで触手を切り落としながら叫んだ。何を必死になっているのだろうかと笑ってしまいそうになる。


 夕闇は再び訪れ、私はあの頃の自分へと戻っていく。

 それはゆちも同じなはずだろう――

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