吸収する是露
『あたしはこんな為に生きてる訳じゃないのよ』
ミカサの叫び声が聞こえる。この体は私のものだ、もう彼女のものなんかじゃない。是露として生まれ変わる、すり替わる現実を受け止めれない彼女は暴走を続ける。レンズ越しに観察している人間でさえ捕食し、全ての血を自分の体内へと窮していくのだ。
(それでいい、もっと是露の期待に応えておくれ)
引き裂く肉体は美しくて美味だ。私はミカサの残り少ない自我が崩壊するのを待ちながら、この瞬間を待っていた。癒智こそが本来の姿だと考える。元の体を改造されて逃げ延びた新しい命。年齢を重ねる事を知らない身体の持ち主。夕月がゆちの身代わりになってしまったのは計算違いだが結果が良ければ全ていいとしよう。
『こんなのあたしの身体じゃない、返せ、返せよ』
どれだけもがいても戻る事のないミカサ。もう堕ちていく事しか出来ない心。私はあの時のゆちを追いかけながら、同じ存在になる為に取り込もうとしている。
(あいつらを殺す為にね)
全ては私の餌だ。ゆちと血がつながるもの、複製品は私のものだから。決して手放したりしない。
『人を殺したくないのに、殺したい。どうして』
私はミカサの言葉にこたえるように、微笑む。何故かって?それは私が望んでいるから血まみれにするの。その何が悪い?人間は私達を利用するだけ利用した、そしていらなくなったら捨てる。だから私も彼等と同じ事をするのだ。
唯一、しおりには手を出さないと決めていた。他の人間とは違う。自分の目的もあるだろうが、私の希望を尊重してくれたから。
『どんな形でもいい。あの研究所に関わった奴らを地獄に叩きつけれたら、そして……』
最後に見たしおりの表情は穏やかだった。過去の苦しみに縛られたように、暗い表情が彼女らしく感じていたが、人間らしくなれたのだろう。
しおりの声が鮮明に聞こえながら、過去へと変化していく。
私はもう縛られた是露ではないのだから――
「今から復讐を始めよう……まずはゆちに関わる全員を皆殺しにする事」
私の言葉は脳へと信号を送り、ミカサを消していく仕事を始める。美味しそうなミカサ、可哀そうなミカサ、自分なりに大人たちと戦おうとしただけなのに、結局、私達に利用されて死んでいくミカサ。
『いやだいやだいやだ』
「貴女の望んでた事」
『やめて』
「もう止まれない」
その身体は是露達のものだから――