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骨の瓦礫  作者: 綾 瑜庵
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違えた情報


 幻影は永遠に私の身体を蝕みながら、しみ込んでいく。風に靡いていた黒髪が怪しく誘いながら、私を誘惑するのだ。


 彼女を見ていると、耐え切れずゴクリと喉を鳴らした。


 『どうしたの?是露(ゼロ)

 「何でもない」


 三笠(みかさ)は惚けたように、首をかしげると、私の右手を取って、言葉を続ける。


 『最近ぼんやりしてるよね。何かあった?』

 「お前の気のせいだろう」

 『……ならいいけど』


 氷のように冷えた自分の手に彼女の温もりが重なる。何も感じないはずなのに、ほんのり塾れたぬくもりが身体を溶かしていく。


 『お二人さん、戯れはそこまでにして、行きましょう』


 彼女に視線を注がしていると、邪魔をするように割り込んでくる。しおりだ。


 『仲いいのに越した事ないんだけどね』


 そう茶化すと、優しい微笑みで私達を包み込む。


 その表情の裏には人を操りたい、欲望を持ちながら、作り変えていく研究者としての顔が垣間見えた気がした。


 何もなかったようにスルリと逃げるしおりはゆち(あれ)と重なる。

 闇に消えていきながら、私達を嘲りながら、どう転ぶのか様子を見ている高飛車のように。


 ――バレなくてよかったわね。


 最悪な旋律が響いた。



 絡まりながら

 首を噛みつく蛇

 闇の中で浮かぶ存在は

 永遠に笑い続けている




 しおりを先頭に先へと進んでいく。彼女の髪は綺麗な黒髪だ。一つに束ねられながら揺れる姿に欲情を覚えてしまうほどに。


 その姿がゆちと重なるのが余計感情をあらぶらせる。


 情報を元にするとゆちの髪は金色と聞いていた。しかし、私があの時、見たのは紛れもない黒だった。


 (情報が違えたか?)


 あの方はゆちにぞっこんだ。あれの存在を知ったのも、それ経由。実際、あれと会った事のある『あの方』が嘘を吐くはずはないと思う。


 別に信用している訳でも信頼している訳でもないが、嘘を吐く理由が見つからないのだ。


 あの時のゆちは宙に浮かんでいた。そして私が見たゆちもまがい物なのかもしれない。


 自然が創り出した幻影の一つ。昔、聞いた事があった。月に愛されし女性には恩恵が宿ると……。姿を自在に変え、人を騙す事も出来る存在へと変換出来てしまうらしい。


 あの方の書庫にある文献の中でも同じ記述が書かれていた事を思い出すと、苦笑いをするしか出来ない自分がいた。


 『どうしたの?大丈夫?』


 表情の変化と私を纏う空気が変わった事に気付いた三笠(みかさ)は私の顔を覗き込みながら、問いかけてくる。


 返答をせずともいい。曖昧な空間の中で思考を巡らせる事も、楽しい遊びの一つなのだから――

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