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骨の瓦礫  作者: 綾 瑜庵
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狂気の華

 私とゆち(あれ)は似ていないようで似ている存在。元から存在(いる)肉体と人の血肉を喰らう為に作られた兵器。そこは違うが、人の悪意の中で生きているのは変わらない事。


 私を美しいと言う者どもがいれば、ゆち(あれ)が一番だと絶賛する人間もいる。見た目は理想の形となり、怪しさを含みながらも、乱れ咲く。


 狂気の華なのかもしれない……。


 『ゆち(あれ)はいずれまた私達の前に現れるだろう。今は深追いしなくて良い。それよりも、統合者は気に入ったか?』


 あの方(・・・)は余程触れられたくないのか、すぐに話を逸らし、私のパートナー、器となりうるであろう三笠(ミカサ)について尋ねてきた。


 人間はこのような時、もっと興味を示すものや、感情を出す存在じゃないのかと思いながらも、あの方にも考えがあるのだからと、ここは流されてみる事に決めた。


 「三笠(あのこ)は美味しい匂いがします。貴方の見立て通り、好みの部類だと」

 『そうか、ならいい』


 あの方は満足そうに微笑む。微笑みと言っても、ただ口角をあげているだけ。目元は笑っているようで、笑っていない。まるでレプリカみたいだ。


 そこがあの方を選んだ理由でもあり、人間の癖に人間らしさがしないのも、また面白い。


 『もう少し接触期間を設けてもいいな。是露(ゼロ)、お前のおもちゃになるのだから、今の内に心を取り込んでおけ』


 「はい、そのつもりです」


 事実、三笠(あのこ)からはいい匂いがする。嗅げば嗅ぐほど、壊してやりたくなるような魅惑の匂い。変に意識せずに、行動をすれば、心などたやすく手に入れる事が出来るだろう。


 あの方は、そっと窓辺に近づいて、鍵を外した。カラカラと窓を開ける音が部屋中に鳴り響きながら、隙間から風が入り込んでくる。


 少し匂いが変わった気がした。



 何が正解か不正解か、正しい道などありはしない。己の欲望に身を任せながら、ごちそうを食せればそれでいい。それでよかったはずなのだが、いつの間にか自分でも気付かない内に、心と言うものを手に入れてしまったのかもしれない。


 私が影響される事はないとタカを括っている人間達は何も恐れていない。だが、真実を知ってしまうと、どうなるのかと考えると、ワクワクしてしまう私がいる。


 (風は綺麗だ、三笠(あのこ)のように)


 窓に映る暗い空を見つめていると、そこにゆち(あれ)がいた。こっちを満足そうに鑑賞している。本物かただの影か分からないが、匂いが変わったのは、ゆち(あれ)の存在が原因だろう。


 私は感情のない冷たい瞳でゆち(あれ)を見返した。あちらもこちらを見つめてくる。先ほどまで私の傍にいたあの方はもういない。私達だけが知りうる空間がそこ(・・)にはあった。


 『よかったね、まだ(・・)バレてなくて』

 「……」


 私の反応を見て、影はすぐ消え、ゆち(あれ)も隠れた。


 「面白い女だ」



 皮肉交じりで発する言葉は空中で空回り、私の中へと戻っていったのだ。

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