同じ存在
すばしっこいネズミ。人間になり切る事さえも許されない私にとって不似合いな言葉。閉ざしていた唇を少し開けると空気と共に憎悪の塊が流れ込んでくる。
是露様、是露様と煩く騒ぎ立てる身体の一部分達。その声が赤ん坊の産声のようでゾクリと身体を震わせた。
「あの方の元へと行かなくては……ね」
これは喜びなのかもしれない、あの方に会える事もそうだが、一番はゆちが私の前に現れた事に高揚しているのだろうか……。ゆちが動き出したとなると、何か面白い事のはじまりでもあるのだから。
「楽しませてくれるわよね、ゆち」
暗闇の中で埋もれる月明かりの中が私を汚して、より一層化け物にしてくれる。見た目は人に近い者同士、尚更、ゆちには期待している。
私は口角を吊り上げ、赤い唇から流れ出る血を見せつけるように微笑む。
「ねぇ貴方もそうだと思わない?」
消えかけている月に向かいながら問いかけると、脆い肉体を持つ人間のように崩れ去った。
欲しくて
欲しくて
たまらない
貴方の声が
貴方の肉が
貴方の命が……
『……来たのかい?』
あの方は冷たい声で呟く。まるで氷漬けされているような言い方に感情は含まれていない。そんな冷酷さも青く靡く髪の怪しさも全てが私の大好物だ。
私に感情などないはずなのに、どうしてだか引き寄せられる、磁石のように。その理由を考えても、それは是露のする行動ではない、だからこそ、求められた女王としての役割を果たすだけだ。
少しでも隙があると、下辺達は貴方を敵視するだろう。女王を操ろうとする悍ましい生き物として。
別に喰らうのは簡単な事だ。私が手を加えなくても、彼等が上手く調理してくれる。そうなったらダラダラと流れる涎を止める術はない。私達の居場所を確立する為の居場所の提供者として生かしておく価値はある。
――裏切ったら喰えばいいだけ。
こんな単純な事、人間には理解出来ないだろう。三笠に忠告した時も『そんな悲しい事言わないで』と怒られたばかりだった。彼女の瞳は淡く、純粋な炎を秘めている。その美しさに目玉を引きちぎりコレクションにしたいと思ったほどだ。
だから人間は脆くて、儚い、そして自分に酔いながら悦に溺れる。
「ゆちが現れました」
中身と外見の違いさに自分でも笑ってしまいそうになる。いくらでも演じる事が出来るのだから、楽しくて仕方がない。
『……』
少しずつ動き出した時計の秒針が少しずつ狂い出しながら、時間を歪ませていく。
「どうされますか?」
貴方はゆちを人間扱いするのだろうか楽しみだ。私と同じ化け物の事を……。