俺の前兆
震える声が聞こえる『幼子』の心の叫びが…。
綺麗なものは綺麗であり
残酷なものは残酷である
全ては表裏一体
美しさは狂気でもあり
残虐さは美でもある
全ては正反対の世界
波間に揺られながら
漂う心の行方
その答えは自分自身にも分からない。
真実でもある……
『…たす…けて』
ガチガチと寒空の中震える『幼子』の姿が俺の瞳に映る。両手で自分の体を包み込み、寒さを耐える彼女は『美』そのものだろう。虚ろな瞳からはほんの少しの『悲しみ』と『寂しさ』を感じる。壊れた『人形』に近い存在に感じてしまった。そんな彼女の姿を見つけてしまった俺は…勿論見捨てる事など出来ない。
(…こんな格好で……)
目を瞑りたくなる現実から逃げ出そうとする自分の影が彼女の瞳に映る。俺の姿は、服装は、俺からしたら『当たり前』だけど、彼女からしたら『幸福』に見えるのだろうか。輝く瞳からは『希望』満ちた輝きが解き放たれる。俺の方を輝く瞳で、まるで『希望の象徴』のような憧れを向けられているように感じているのは、俺の気のせいだろうか?
「大丈夫か?」
何も出来ないかもしれない。今俺が彼女に『優しさ』を与えたとしても、いつかは自分の足で動かないといけないのが現実。『憧れ』と言うものは時に残酷であり、その代償として『依存』がついてくるのが現実なんだよ。『優しさ』は甘い蜜、禁断の果実。それに『甘えて』しまっては自分の軸や色なんて壊れていく。そして自分の生き方や人生なのに人の人生を『コピー』して、本当の姿を見失ってしまう。ここで彼女を助ける『行為』は一番『残酷』で『無責任』な救助でしかないんだよな。俺には彼女の全てを見るなんて出来ないし『依存』されても『彼女』でもなんでもない、赤の他人に出来る事なんて、何一つないから。ただの烏滸がましい『偽善』でしかないんだ。それでも、俺は手を指し伸ばす。『助ける』と言う責任の重さを何も考えずに、自分から飛び込む。逃げれなくなる、それが人間の弱さ。関わる人たち、周りの人間によって『支配』され『影響』されるのが人間だからね。悪い事している奴と関係を持つと『悪』に染まるか『灰色』になるかなんだよ。一番賢い選択は『灰色』だ。黒にも白にも染まらない。中立の立場。いわば『一匹狼』なんだろうな。それが本来の俺の『立場』でもあるから、余計にらしくない事をしているんだ。
「…寒いだろ、俺のコートでも羽織るといいよ、風邪ひくから」
それが唯一の優しさと突き放す言葉でもある。俺の為に……。
そして『幼子』
君の為に。
『ありがとう…ございます』
可愛い声が俺の煩悩を狂わしていく。狂気の始まりであり、巻き込まれなくてもいい事に巻き込まれる『前兆』でもあったんだ。俺は『あいつら』と関わる気なんてないのに。この先の話で俺の『人生』に深く関わる人間達を、望んでいないのにな。