輪廻
素敵な事を知った。
私は人間にはなれないのに知ってしまったの。
『是露様』
私の支配下達が何度も何度も、邪魔をする。
こんな時、私が人なら『溜息』を吐いて、呆けているのかもしれない。
……またか、ってね。
「何度も何度も呼ばなくても聞いているよ。お前達はせっかちだな」
『是露様がおっとりしすぎなのですよ』
「私は普通だ。お前達がせっかちなだけだよ」
『いえいえ』
(ああ。めんどうだ。何度もこのやりとりの中で対話をする事が苦痛で仕方がない。結局は私の創りとこいつらの創りが違う。機能も制限されてしまうのだろうな。)
風は吹く。私の身体は人のものではない。正しく言えば『人に似せた偽物』だ。人間達の欲望の為に産み出されて、機能停止すると廃棄される『運命』にある私達に、本当の未来はあるのだろうか……。
「はは」
未来なんて言葉が創られた脳みそから出てくるなんて思いもしなかった。悲しい笑い声が夜風に流され、私は再び一人ぼっちになる。毎回その繰り返しなのだから。もう慣れた。同胞達や支配下の存在が消滅していくたびに、私はからっぽになる……
――是露。
何もそこにはなかった、はじめから。誰もいなかった、最初から。私は存在していないのだ。
永遠と……
「悲しくはないぞ。ゆち」
君が私に託した想いは身体を持ち、是露へと進化したのだから……。
ガタンと誰かが本棚を揺らす。存在の曖昧な私は、透明人間に近い存在で、光景を楽しく拝見している。夜にならないと『人型』を保てないのだから、困ったものだ。実験の邪魔になるし、私が人間になる時間もかなりかかるのだから。昼も姿を保てる事が出来たらいいのに、そう音にもならない声で呟く。
悲しいものだ。姿だけではなく、声も音も何も発する事が出来ないなんて、本来なら苦痛に思うのかもしれないが『中途半端』に創られた私は、まるで妖精になったかのように、スキップするんだ。
考えてみろよ。こんな時間を楽しむ事が出来るのは、是露として保ててないから。今の私は名を持たない、ただの空気と言う訳だ。
「それもそれで居心地がいい」
まるで少女のように飛び跳ね、楽しむ私はまだ何も知らない。
これから綺麗で美しく感じた昼間の世界がどうやって歪んでいくのかを……
『是露。あなたに選択肢はないのよ?』
現在の私が見えているような口調で、闇に埋もれた人間が刃のように血を欲しがり、唇を赤く染めた。
『きゃはは。楽しみ~』
ふわりといい匂いと共に、長い金髪を揺らしてる。
――輪廻に気付かずに……