EPISODEゼロ『血だまりの瓦礫』
EPISODEゼロ『血だまりの瓦礫』
ガラクタはいつまでも所詮ガラクタだ。壊れた心は闇に包まれながら幻影を見せようとしている。まるで破壊するように、浸食するツォイス。
あたしの名前はゼロ。この瓦礫を統括する幻影人形。あたしを作った人間は、きちんと廃棄処理出来ていない事から、計画の歪みが創られた事実にまだ気付いていない。
ふっと微笑む自分の姿が鏡に映る。自分の中では微笑んでいるはずなのに、脳にインプットされているデーターの中では不気味としかインプットされていない。
――人間になりたい。
あたしの身体は『瓦礫』。右手を思いっきり殴りつけると、再構築された肉体が、ガラスの破片と共に飛び散る。脆い肉体は、まるで肉だまりのようで、美味しそうな血の匂いが、麻酔のように、酔いしれろと言わんばかり、染みついていく。
あたしはゼロ。全ての源の存在のゼロ。
あたしの為に操り人形へと成り下がった『チルドレン』達は、いい仕事をしてくれている。そして過去の、あたしを本当の意味で壊したあの兄弟に会えるなんて、なんて素敵な旋律なのでしょう。
右手は原型を消し、姿を消した。まるで最初からなかったように、闇に喰われたようだ。美味しいスープが取れそう。今日の夕飯は、あたしの砕け散った右手の肉をコトコトと煮込んで、味わいましょう。
「自分のものと言っても、元は死人の手を再生しただけですけどね」
だから脆いんですよ。それは致し方のない事。
『おや。今日は起きていたのかい?是露』
バタンとドアを閉める音に誘われて、もう一つの曲を奏でるのは、お食事係の『あの方』なの。
どうしてあたしの一人遊びを邪魔するタイミングで入ってくるのかしら?
いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも。
『ご飯を持ってきたよ。食べなさい』
あたしの食事と人間が口にしているものを一緒にしないでほしいのにね。普通のご飯、生臭さもない、口の周りを血だまりで汚す事も出来ない。ただカチャカチャとスプーンと皿の当たる音が響きながら、食べるご飯は、あたしの本当の栄養になる訳ではないのに。
分かってて、食事を出すのね。あたしが欲しいものを出してくれないと『空腹』で倒れてしまいそうなのに、それなのに、絶対に与えてくれない。
貴方の御父上はよく与えてくれたのに、あの方は拒絶している。
あたしは何の味もしないスープを飲み干しながら、ニッと歯茎まで見せつけるように、笑っているように見せるの。それも不気味かもしれないけど、美しいと思わない?
「我慢出来ない。次の食事の時に、味わおう……」
あの方のスープをとるの、きっと血だまりの美味しい食事がとれると思うから。
――素敵。