覚醒
誰かの声がする
まるで浸食していくように
私を破壊する
気のせいかもなのだろうか……
最初は身体に注入された感触なんてなかった。リアルの中で感じたのはチクリとした注射針の痛み位で、他に違和感はなかった。当初、本当に人体実験して、あたしの人生の何が変化するのだろうと、自問自答したけど返答はただの『無』だけだったのね。
虚しい気持ちもあるけど、一番に感じたのは『不安』だったんだ。得体のしれないものが入ってくるって、あたし達『普通の人間』からしたら、怖いのは当たり前だよね。
――そう感じるのはあたしだけなのかな。
異変を感じ始めたのは、声からだったの。頭の中に響いてくる声のような音のような……なんて言ったらいいのか分からないけど。
ノイズ音に聞こえたり、ピアノの音のように響きがあったり、不思議な感覚の中でいた。そこには恐怖があるはずなのに、安心しかなかった。
あたしの中で蠢いているツォイスの長は微笑みながら、徐々に浸透して、馴染んでいく。
それが本当の『崩壊』のはじまりだなんて思う事もなく……。
時間が過ぎて、あたしは御笠ではなく、別人のミカサに変貌していく。今まで『人』として生きてきた人生の記憶が、剥がれていくような、あたし自身がモノラルになって、消えていった。
その先にあったのは『偽物』の記憶と、死んだ人間からパーツを千切り取って出来た『人間もどき』と言う偽りの立場の中で、成長していく。
あたしが彼女に連れられたのは、過去に爆破事件を起こして死を招いたある『研究施設』の残り香を再建した場所だった。
引かれた手は少し熱を持ち、そこから彼女の感情が流れ込んでくる気がしたの。
あたしが感じたのは『怒り』と『消失感』だったのを覚えている。その時、何故、そう思ったのか自分でも理解出来なかった。
人間の直感と言えばいいのかな?なんとなく、そう思ったんだ。そしてきっと、あたしの見えない所、知らない所で、何かが動き始めてた。
あたしはふと言葉を漏らし、彼女に問いかける。
「おねぇちゃん、大丈夫?」
首を右に傾けながら、不思議そうに見つめるあたしは『幼子』自身。本当の年齢から若返ったようにみえる風貌は彼女から見たら、恐ろしかったのかもしれない……。