私には名前がない。
私の声を彼女に渡す事なんてない
そう思っていた
私は人ではなく、人を操りし者
決して同情してはいけない存在
――平等なの。
私には『名前』がない。個人名としての名前はないんだ。それでも人と同じような頭脳は持ち合わせているんだから……不思議だよな。
私を中心としツォイス達が現実世界の情報が私の頭脳の一部になっていく。そしてそのツォイスと呼ばれる、私の身体の一部であり、手下は、消えていくのだ。
私と御笠の栄養分として、別のモノに変化しながら、私達二人は成長していく。御笠は私の存在へと近づき、私は御笠の生き写しのようにコピーされていく。
――御笠はまだ気づいていない。
「可愛い私のツォイスよ。私と御笠の養分になりなさい。それが願いなのだから……」
しかし、人間如きの提案に乗るなんて、今までの私なら絶対にしない事だ。それでも今回は、いつもと違った。しおりから色々な人間を見せられたが、どれもピンとこない。
興味もないし、欲しくもない、ただ人形のようにしか見えなかった。 まだ私の方が『人間』らしいとさえ感じたくらいだから。
私の身体は『液体』だ。その中に人間と同じような『頭脳』に似たものを埋め込み、上手く溶かしていったと思う。人の形から遠のいているが、人間を器にして、擬態する事が出来る。最高の『生き物』と呼んでいいのだろうか。
しおりは私を必要だと呟いた。大人の頭脳を取り込んでいた私はしおりの言葉の意味がはっきり理解出来る。
「……最後だよ、私は気が長いほうじゃないから。これで最後だ」
『ツォイス。分かったわ。貴方の言う通りにする。次の人間は傑作品だから、安心してね』
何が『傑作品』だ。今まで私に提供しようとしていた人間は、まずそうだった。あんなもので、私達を満たせると思っているのか?仲間に出来ると、支配出来ると……勘違いも甚だしい。
そう思っていた時だった。ギィーとドアを開ける音が聞こえたのは……。
『気に入ると思うわ、きっと……』
「また戯言を……」
呟きは私の中だけで消化されていく。そして私の全身が鳥肌を立てて、欲したのだ。初めての感覚。本能というのだろうか。人ではない私にも、そんなものがあるのか分からないのだが。
――なんて美しいんだ。
それが私と御笠との出会いだった。一方的な出会いだけどね。