彼女と御笠
「ねぇ、しおりさん」
『どうしたの?御笠』
「この遊離、誰かに操られているよ?」
『……どういう事なの?』
「あたしにも分からないけど、ツォイスが反応してる。敵認定しているみたい」
『なるほどね』
しおりさんの言葉は簡潔。あたしに何の説明も落とさず、一人で納得しているご様子。まるで高みの見物でもしているみたいで、違和感を感じたのよ。
あたしの身体に流れ、一部となっている『ツォイス』と言う兵器は、人間の体内に入った瞬間に変異する。寄生虫のようにあたしの身体の中で育ち続けるの。
食い破られる事はない。この子達は伸縮自在なのだから、私の身体に合わせて『形』を変えて共存を選んでいる存在なの。
(……あの遊離の後ろにいるモノとは違うからね)
あたしには微かに見えるの。これはツォイスが見せてくれているのかもしれない。一つの警告として。まるで『気をつけて』と言われているみたいで、笑ってしまう。
(このあたしがあんなのに喰われる訳ないでしょ?)
心の声は体内に住み着いているツォイス達に安定を齎し、手綱を引く。まるで本当に、この子達の飼い主になっているみたいね。
ふう、と溜息を吐きながら、ツォイスの目線を借りて、どんなものが後ろにいるのか姿を確認するの。あたし達『人間』には見えない、でも、ツォイスには、はっきりと見えているみたいだから。
あたしは瞼を閉じながら、意識を飛ばす。その瞬間に体が崩れないように、ツォイスの中心核的『存在』の彼女の瞳を借りるの。彼女は寝起きみたいで、少し気だるそうに呟いたわ。
「どうして私を起こしたの?」
まるで自分自身と会話をしているみたいな錯覚を感じながらも、あたしは彼女に記憶を提供しようとする。
「……全部見ていたから、貴女の記憶なんて必要ないよ」
「だったら話は分かるでしょう?」
「……あれが何か知りたいの?」
「ええ」
「御笠、貴女はまだ人。あれは放置してた方がいいと思う」
どうしてだろうか。彼女の呟きの中に引っかかる言葉があったのだけど、現在はスルーするしかないような気がしたのよ。
――きっと決心が出来ていないから、逃げていたのかもしれない。
「放置していいモノだとは思わないけど……」
「……また厄介事を。好きにしなさい」
それ以降、彼女の声は途絶えた。