魂はそのままで
あたしがここで目を開けてしまったらダメだと防衛本能が囁くんだ。圭人は何処にいるんだろう。あたしと一緒にいて、それで……ううん、なんだか思い出せない。あたしどうかしたのかな?
『嫉妬に狂った醜い遊離』
黒い影がフワリとあたしの心を包み込みながら、知りたくもない情報を教えてくれる。凄く悲しくて、残酷な現実を……。
『お前の愛する圭人はもういない』
愛している?あたしが?彼を……。何を言っているのだろう。それは過去の話よ。私がいくら求めても受け入れてくれない彼は、あたしを拒絶した彼は、もうあたしの心の中には存在していないのだから……。
『嘘つき、嘘つき。本当は……今でも』
『『愛してる癖に』』
囁きがいつの間にか男性と女性の声に分かれて、あたしを追い詰める凶器に変化していく。どうしてだろう。この囁き、まるで生きている人間が呟いているみたいに、リアルに感じる。
――あたしの気のせいだから。
ギュッと再び瞼に力を入れ、拒むように固く閉じる。永遠に、このまま起きる事のないように、と願うように、まるで反抗している子供のよう。
『母さん、遊離は使えるよ?』
『ふふふ。そうね白兎。この子からもらいましょうか……』
『母さん……いえ影法師。貴女の望みのままに』
『『喰らいましょう。魂はそのままで』』
あたしの頭の中には嫌な音が鳴り響いて、全身に激痛が走る。
「ぎゃあああああああああああ」
寝たふりをしていたのに、その痛みに耐えれず、叫び声をあげてしまう。そして豹変したあたしの姿を見つめている『二人の人物』の視線を感じるの……強く、殺意に満ちた、瞳の輝きを。
「いやあああああ。痛い、痛い、痛いぃぃいぃぃ」
この痛みは何なの?今まで感じた事のない痛み。頭の中に影法師と呼ばれる女と白兎と名乗る男の二人の意識が流れ込み、あたしを『操り人形』にしていく。
ガシャンガシャンと鎖に両手を繋がれた体は、うめき声をあげながら人間から獣に堕ちて行った。
その瞬間を見て、無言で立ち尽くすしおりと御笠の姿を捕らえてしまった。
目を見開いた瞬間、しおりが近づいて、言葉を吐き捨てるの。
『起きてたのですね。遊離元主任。そんな涎垂らして、叫び声あげて、どうしたのですか?狸寝入りまでして……それで私達から逃げれるとでも?』
言葉の締めくくりはこうだった『軽率でしたね』