複数の優しさ
眠り姫はどこまで眠るの?
ドアを開けて、会いにきたというのに
本当いつまでたっても『お寝坊さん』なのだから……
ガラリとドアを開けると、二人の偽物が見えた。一人は半分上壊れた元人間、今は、私が彼女の体内に注入したツオィスに浸食され、操られているといった所だろうか。後一人は眠り続ける『眠り姫』なんて付けて見て、自分で笑いそうになる。
何が『眠り姫』よ。そんな可愛いもんじゃないでしょ。ただの研究者なのだから。
そして、しおりの元上司にあたる研究者の遊離。そう彼女と|圭人から、この狂った惨劇は始まったにのよね。
(表上はね……)
三分くらいの間で色々な事を考えて、軽く分析してみると、その間静寂が訪れ、まるで映像が停止しているみたいに、時間が止まっている。
不思議な空間で、私の愛する、至福の瞬間でもあるの。誰かに会いにいく時には、軽くだけど、先を見据えて自分のキャラ設定を決めて、関わるの。
これもTPOの一つでしょうに、何も間違っちゃいないから。
人によって視野の一つ、捉え方の一つで価値観なんて簡単に変えれるのよ。
(じゃないと、この世界で生きていけないでしょ)
仮面をかぶる事が正論なのよ、私達の生きる世界ではね。じゃないと狼に狙われて食べられちゃうからね。まるでおとぎ話のように。
子供の発想をしてみると、なんだかほんわかしたわ。本当はクスリと微笑みながら、この空間に酔いしれたい所だけど、それはいつでも出来る事だから、後まわし。
『あっ!しおりさん。遅いですよ』
「……あら。ごめんなさい」
『もー何ボーッとしてるんですかぁ?ちゃんと研究者を狩ってきたのに』
ムスッと頬を膨らます御笠を見て、なんて可愛らしいのかしらと思う私がいる。彼女の望んだ事とはいえ、人間を殺人兵器の実験体にする事に躊躇があったの。彼女の楽しそうな表情を見ていると、選択肢を間違った訳じゃないんだなと案著している自分がいる。
(言い訳かもしれないけどね)
「ふふふ。いい子ね。御笠は。ちゃんとツォイス使いこなしているし。ありがとう」
私らしくない言葉を吐いたのかしら?御笠はキョトンとし、首を傾げながら問いかけてくる。
『しおりさん、何か雰囲気変わりました?優しい……』
「あら、失礼ね。私はいつでも『優しい』のよ?」
勿論色んな意味でだけどね……。